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ISO規格における「不適合」とは、規格が求める要求事項と、実際のマネジメントシステムの運用実態との間に乖離が認められる状態を指します。一般的に「不適合」という言葉に対し否定的な印象を抱く企業は少なくありません。一方で、不適合の指摘は業務プロセスおよび管理体制に内在する課題を顕在化させ、是正処置や改善策を講じて、品質・安全性の向上、業務最適化につながる契機でもあります。
ただし、不適合の発生要因や対応方法を正しく理解していなければ、表面的な対処に留まり、根本的な改善にはいたりません。この点を踏まえ、ISO規格では不適合が発生した際の対応について、明確な要件を定めています。
本記事では、不適合の定義および種類、主な発生原因に加え、是正処置の具体的な手順について詳しく解説します。
ISOにおける不適合とは
ISOにおける不適合とは、規格で定められた要求事項および自社の業務手順に準拠していない状態を指します。認証取得や運用を行ううえで、不適合の正しい理解と適切な対応は不可欠です。以下では、不適合の定義およびISO規格上の位置づけについて解説します。
不適合の定義
ISOにおける不適合とは、要求事項を満たしていない状態を指します。ISOで定められている要求事項とは、「明示されている、通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている、ニーズ又は期待」と定義されており、ISO規格の種類および業種によって項目は多岐にわたります。
ISO審査において、不適合として指摘されるのは以下のような事象です。
- 規格要求事項を満たしていない(内部監査、外部審査、取引先による審査・調査)
- 顧客のニーズや要求を満たしていない(苦情、クレーム)
- 情報システムは365日24時間利用可能である(システム障害)
- 法令違反(事件・事故、行政指導)
- 会社が定める規定違反
どのような事象・情報が不適合の対象になるのかを正しく理解しておくには、規格が定める用語定義を正確に理解する必要があります。
ISO規格上の位置づけ
ISO規格における不適合は、単なる要求事項からの逸脱ではなく、企業・組織のマネジメントシステムを強化するうえで、重要な機会として位置づけられています。ISO9001:2015の要求事項10.2「不適合及び是正処置」において、おおまかに以下の内容です。
10.2 不適合及び是正処置
組織は、不適合が発生した場合には、次の事項を実施しなければならない。
a) 不適合を管理し、それに対処する。必要に応じて、起きた結果への処置を行う。
b) 是正処置の必要性を評価することによって、不適合の原因を除去するための処置を実施する。
c) 必要な処置を実施する。
d) その処置の有効性をレビューする。
e) 要求事項への適合を維持することを確実にするために、マネジメントシステムにおける変更が必要かどうかを判定する。
f) 実施した処置を文書化した情報として保持する。
不適合が指摘された場合、まず修正処置(当該事象への当座の応急対処)を実施する方法が一般的です。その後、当該不適合の根本原因を究明・特定し、その原因を除去するための是正処置を講じます。この是正処置は、不適合の再発防止に留まらず、類似の不適合が他部門および他のプロセスにおいて発生しないよう、水平展開される場合もあります。
不適合の特定から根本原因の分析、是正処置の実施およびその有効性の確認にいたるまで、一連プロセスは継続的な実行が不可欠です。企業・組織におけるマネジメントシステムの継続的改善を図り、中長期にわたる体制維持・改善に努める必要があります。不適合を課題としてではなく、改善への契機として積極的にとらえる組織文化の醸成が不可欠です。
ISO不適合の種類
ISO規格における不適合は、単一の事象ではなく、その性質および影響度によっていくつかの種類に分類されます。これらの分類に対する理解は、不適合の本質を把握し、効果的な是正処置を講じるうえで不可欠です。以下では、ISO不適合のおもな種類とその特徴について解説します。
観察事項
観察事項(Observation)や改善の機会(Opportunity for Improvement)は、ISO審査における指摘事項の1つで、「不適合」とは区別されます。現時点では規格要求事項を満たしているものの、将来的に不適合につながる可能性のある懸念事項、改善する余地を指すものです。
具体的には、マネジメントシステムの有効性をさらに高めるための提案、文書化されていないものの口頭で運用されているプロセスなどが該当します。観察事項は、直ちに是正処置が求められる不適合とは異なり、企業・組織が自らの判断で対応を検討し、必要に応じて改善を進めるよう奨励される指摘です。観察事項への適切な対応は、企業・組織の継続的改善文化を醸成し、潜在的なリスクを未然に防ぐうえで重要視されています。
軽微な不適合
軽微な不適合(Minor Nonconformity)は、ISO規格の要求事項を部分的に満たしていない状態を指します。マネジメントシステム全体の有効性に致命的な影響を与えるものではなく、比較的容易に是正が可能な範囲の逸脱として扱われる指摘事項です。たとえば、文書の承認漏れ、記録の一部欠落、軽微な手順の逸脱などが該当します。
軽微な不適合が指摘された場合、組織は速やかにその原因を特定し、是正処置を講じる必要があります。原則、審査最終日から30日以内に是正処置の計画を提出し、承認されれば認証は継続されます。重大な不適合とは異なり、即座の認証停止・取り消し判断は下されないものの、放置すれば将来的に重大な不適合に発展する可能性がある状況です。軽微な不適合であっても、PDCAサイクルに組み込み、マネジメントシステムの継続的な改善機会としての対応が求められます。
重大な不適合
重大な不適合(Major Nonconformity)は、ISO規格の要求事項に対する深刻な違反であり、マネジメントシステムの運用に著しい影響を与える状態を指します。システムの根幹に関わる欠陥および法令順守に関わる重大な問題など、企業・組織運営に大きなリスクをもたらす可能性のある事象です。
具体的には、重要なプロセスの未実施、顧客満足度・製品品質に直結する管理の欠如、繰り返される軽微な不適合が、システム課題に起因する状況を示唆する場合などが該当します。重大な不適合が指摘された場合、審査停止及び後日再審査となり、組織は認証の一時停止および取り消しのリスクに直面するため、速やかに応急処置対応と原因の特定、広範かつ抜本的な是正処置を講じる必要があります。
関連記事:ISO認証取り消しの原因を解説|企業が受ける影響や対策とは?
ISO不適合が発生する主な原因
ISOにおける不適合は、規格および業務手順などの社内ルールに違反しており、放置すれば重大なリスクの発生、信頼性の低下につながる状況です。不適合の発生には必ず原因があるため、抜本原因の正確な特定・把握により、再発防止と継続的改善が実現します。以下では、不適合が起こるおもな原因について解説します。
必要文書が誰にでも訂正・削除できる状況
不適合の原因として、必要な文書が誰にでも自由に訂正・削除できる状態が挙げられます。業務手順および記録の正確性・信頼性が損なわれ、規格で求められる文書管理の原則に違反している状態です。
たとえば、手順書が意図せず改変された場合、誤った手順で作業が行われる可能性があります。ISO規格では、文書の作成・改訂・承認に関する明確なルールを定めるよう求められており、アクセス制限・変更履歴の記録による文書管理の徹底が不可欠です。
手順書と業務内容の乖離
手順書と実際の業務内容が乖離している場合も、不適合として指摘されます。手順書に記載されている手順を現場で実施できていない場合、文書と実務の間に差異が生じている状態です。
このような乖離は、内部監査および外部審査で指摘されるだけでなく、企業・組織が提供している商品およびサービスの品質・安全性の低下にも直結します。このような事態を回避するためにも、手順書は定期的な見直しと現場の実態に即した内容への更新が求められます。
内部監査やマネジメントレビューが未実施
内部監査やマネジメントレビューはISOでは重要な活動と位置付けられており、これらが未実施の場合は重大な不適合とみなされます。ISO規格では、経営層がマネジメントレビューを通じて内部監査を始めとするISOマネジメントシステムの有効性を示すデータや情報を評価し、必要な改善処置および方針決定の実施が求められています。
マネジメントレビューを実施しないままでは、問題点が経営レベルで共有されず、マネジメントシステムの継続的改善が滞る恐れがあります。定期的なレビューの実施と記録は、PDCAサイクルの「見直し」にあたる重要な要素であり、未実施の場合ISOの要求事項に不適合と判断される可能性があります。
ISO不適合発見~是正処置の手順
ISO規格に準拠したマネジメントシステムの運用において不適合が発見された場合、そのまま放置せず根本原因を明確にし、再発防止を目的とした是正処置の実施が求められます。このプロセスは、マネジメントシステムの信頼性を高め、継続的な改善につなげる重要な要素です。以下では、不適合の発見から是正処置完了までの基本的な手順を解説します。
1.不適合の発見
不適合は、内部監査・外部審査実施時に加えて、日常業務・苦情対応など多種多様な場面で発見されます。ISO規格では、要求事項および社内ルールとの乖離がある場合、たとえ小さな逸脱でも「不適合」として扱います。不適合を発見した際は、誰が・いつ・どこで・どのような不適合を発見したのか、正確性の高い情報の記録が不可欠です。
2.不適合の修正処置の実施
不適合が確認されたら、まずは現状の是正を目的とした修正処置・応急処置を行います。たとえば、誤った書類を訂正する、不良品の交換・修理対応など、影響を最小限にとどめるために実施する応急的な対応です。これは根本原因に対する「是正処置」ではなく、まず現場の問題を早急に解消し、影響の拡大を抑止するための処置として実施します。
3.不適合の分析・特定
不適合に対する是正処置を講じるために、不適合の表面的な現象だけでなく、なぜその問題が発生したのか根本原因を分析・特定します。根本原因の特定には、なぜなぜ分析(5Why)、特性要因図(フィッシュボーン)などの手法を活用する方法が一般的です。根本原因の特定を誤ると、是正処置を講じても再発防止につながらず、同じ問題が繰り返される恐れがあります。不適合が発生した原因でよく目にするのは“教育不足”“理解不足”“周知不足”で、是正処置が“教育”ですが、これだけでは不十分です。原因は“ヒト”“設備”“手順”の3つの視点で追究することを勧めます。
4.是正処置の決定
分析で特定した不適合の根本原因に対し、再発を防止するための具体的な対策として是正処置の方針を決定します。具体的には、業務手順および手順書の見直し、教育方針の改善、チェック体制の強化などです。是正処置は、継続的な改善(PDCA)の一環として、実効性があり、かつ実行可能な内容である必要があります。
5.是正処置の有効性レビュー
実施した是正処置が、再発防止に効果を発揮しているか有効性の確認作業も重要な工程です。是正処置の有効性を確認する際は、再発の有無、作業の定着度、関係者の理解度などを確認して判断します。レビューの結果、是正処置が不十分と判断される場合は、追加対策および再教育が必要になります。
6.不適合箇所と是正処置に関する文書の作成・保管
不適合の発見から対応した修正処置および是正処置については、文書の作成が不可欠です。不適合の内容・原因、是正処置、レビュー結果などを文書化して保管し、将来同様の事象が発生した際には、対応方法の参考資料として活用します。不適合の発見・是正処置に関する文書は、ISOの内部監査・外部審査時においても重要な資料です。
関連記事:ISOで求められる是正処置とは?定義・位置づけ・対応手順を体系的に解説
総括
本記事では、ISO不適合の定義・種類、不適合の主な原因、是正処置の具体的な手順について解説しました。不適合は、放置すれば企業・組織の信頼性および経営に対して大きな影響を及ぼすため、早期発見と適切な対応が不可欠です。不適合の発生を抑止するには、要求事項を満たすマネジメントシステムの構築と運用の徹底が求められます。一方で、不適合の発見は、マネジメントシステムの改善につながる重要な機会です。より良い体制構築に向けて、体制を見直す契機ととらえたうえで、対応策を講じる必要があります。
この記事の編集者

QFSjapan編集部
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