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ISO9001は、品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格です。企業・組織が一貫した品質の製品およびサービスを提供し、顧客満足度の向上と継続的改善の仕組み構築を目的としています。ISO9001規格の要求事項において「文書管理」は、業務の統一性・正確性を確保するうえで不可欠な要素です。
適切な文書管理の実施は、企業・組織全体に情報が確実に共有され、作業手順および品質の一貫性に寄与します。誰が・いつ・どのような判断を下し、作業を実施したかを記録するため、文書管理はトレーサビリティの確保およびリスクの低減においても効果的です。本記事では、ISO9001における文書管理の概要と重要性、関連する要求事項、文書管理の留意点について解説します。なお、文書化とは必ずしも“印刷した紙”である必要はありません。昨今、電子化、IT化、デジタル化と言われているので、サーバーやグループウェアでの共有、ワークフローの活用でも構いません。
ISO9001における文書管理とは
ISO9001における文書管理とは、品質マネジメントシステム(QMS)の運用に必要な文書および記録を適切に作成し、更新・保管する仕組みを指します。必要時に正確かつ最新の情報を適宜参照できる状態を維持し、業務の標準化・品質の一貫性を確保します。
法令および規格要求への適合を担保し、内部監査・外部審査の円滑な実施にも寄与するものです。以下では、ISO9001の概要・目的、文書管理の重要性、ISO9001における文書管理の位置づけについて解説します。
ISO9001の概要・目的
ISO9001は、国際標準化機構(ISO)が策定した、品質マネジメントシステム(QMS)に関する国際規格です。企業・組織が提供する製品およびサービスの品質を継続的に改善し、顧客満足度の向上を図る目的があります。
ISO9001は、業種・組織規模を問わず適用が可能な規格であり、企業・組織のプロセスを体系的かつ効果的に管理する枠組みです。主眼は、顧客要求および法令・規制要求を確実に満たす体制を整備し、内部プロセスの効率化と継続的改善の推進にあります。
規格の要求に適合した仕組みの導入により、品質の一貫性と信頼性を高め、企業・組織全体の競争力向上に資する管理体制が実現します。外部からの信頼獲得にもつながるため、取引先・市場におけるブランド価値の向上にも有効な手段です。また、公共案件の入札要件となっていたり、大手企業との取引で認証が要求または推奨されている事例も多々あります。
企業・組織における文書管理の重要性
企業・組織における文書管理は、業務効率の向上および品質の維持・改善を支える基盤です。適切な文書管理は、必要な情報を迅速かつ正確に共有でき、部門間の連携強化・意思決定の精度向上にも寄与します。
つねに最新版文書の利用が可能な状態を維持すれば、業務手順・品質基準の統一が図られ、業務の均一化も実現します。また、法令および規格への適合を証明する重要な根拠となり、内部監査・外部審査での信頼性を獲得するうえでも有効性の高い手段です。
文書の不備や紛失・不正アクセスを防ぐ管理体制の構築は、情報漏えいおよびコンプライアンス違反のリスク低減にも直結し、企業・組織の継続的発展と企業価値の維持を支援します。
ISO9001における文書管理の位置づけ
ISO9001における文書管理は、品質マネジメントシステム(QMS)の有効性を確保し、企業・組織全体で一貫した品質を維持するための中核的役割として位置づけられています。
ISO9001規格では、文書化された情報の作成および更新・管理に関する要求事項が明確に規定されています。必要な情報を正確に最新の状態で文書として保持し、必要時に確実かつ迅速に活用できる状態の維持が不可欠です。
適切な文書管理により、手順および基準の統一が促進されれば、業務の再現性、法令・規格要求への適合が担保されます。内部監査・外部審査においても、適切に管理された文書が企業・組織の信頼性を裏付ける証拠となります。文書管理は記録の保管にとどまらず、継続的な品質向上を支える重要な役割を果たすプロセスです。
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ISO9001に適合した文書管理を実施するメリット
ISO9001に適合した文書管理の実施は、以下のメリットが見込まれます。
- 最新情報の共有
- 業務効率化の実現
- トレーサビリティの担保
- リスクマネジメントの実現
以下では、ISO9001規格に適合した文書管理体制の構築が、企業・組織全体にどのような影響を与えるのかを解説します。
最新情報の共有
ISO9001に則って文書管理を適切に行えば、企業・組織内の関係者はつねに更新された最新版の文書情報に、アクセスできるようになるメリットが見込まれます。電子化された管理体制を導入すれば、文書の検索・閲覧に要する時間も短縮され、文書改訂後の最新情報に関する伝達速度の向上も実現可能です。
結果的に、部門の垣根を超えた迅速な意思決定につながり、情報の齟齬および伝達時間のずれによる混乱も未然に予防します。
また、各文書における改訂履歴の記録・管理体制の構築は、最新版の識別を容易にし、旧版の誤使用を回避するうえでも有効です。ISO9001の要求事項に準拠した文書管理体制の構築は、最新情報の共有における確実性および迅速性を高め、企業・組織に対する信頼性の向上と業務の安定化を実現します。
業務効率化の実現
ISO9001に準拠した文書管理体制の整備は、情報の整理と標準化を促進し、業務の非効率を排除します。これにより、必要な情報を迅速かつ正確に把握でき、意思決定の迅速化と作業効率の向上を実現します。
さらに、統一された管理体制は業務の一貫性を確保し、生産性の向上やコスト削減に直結します。最終的には、顧客満足度の向上と競争力の強化につながり、組織の持続的成長を支える基盤となります。
トレーサビリティの担保
ISO9001に適合した文書管理の実施は、いつ・誰が・どのような判断や作業を行ったかを記録として残し、追跡できる「トレーサビリティの担保」につながるメリットも見込まれます。
ISO9001に適合した文書管理は、全工程におよぶ一元管理体制の構築につながり、トレーサビリティの担保、つまり情報の追跡可能性を確立します。各文書に改訂番号・版数、作成日、担当者・承認者などの情報を付与するため、いつ・誰が・どのような判断や作業を行ったのか、明確かつ迅速に把握するうえで効果的な手段です。
業務プロセスおよび製品・サービスの品質に関する問題が発生した際には、原因の特定・是正処置を迅速化します。内部監査および外部審査においても、改訂履歴の記録は信頼性向上につながり、法令・規格要求への適合性の明示に有効です。
リスクマネジメントの実現
ISO9001に適合した文書管理の導入は、企業・組織におけるリスクマネジメントを効果的に実現します。文書および記録の体系的な管理により、業務手順・基準の不徹底、旧版の誤使用、情報漏えいといった潜在的リスクを未然に抑止できるためです。
規格に準拠した文書管理体制の構築は、文書の紛失・誤使用、承認漏れなどのリスクを最小限に抑えます。改訂履歴および承認記録が明確になるため、問題発生時の原因追跡・特定、および是正処置の迅速化も可能です。
ISO9001に適合した文書管理により、関連法規の変更時にも速やかに対応できる体制が整い、コンプライアンス違反の可能性も低減します。これにより、一貫性のある業務運営が可能となり、品質不良・顧客クレームの発生などのリスクを抑制し、企業・組織の信頼性向上と持続的成長に貢献します。
ISO9001における文書管理に関連する要求事項
文書管理は、ISO9001規格における要求事項7.5に明記されています。以下では、各要求事項の内容を踏まえ、文書管理に関連する項目の内容を紹介します。
7.5.1 一般
ISO9001の要求事項7.5.1 一般における文書管理については、おおまかに以下の通りです。
ISO 9001:2015「7.5.1 一般」
組織の品質マネジメントシステムには、次の事項を含む文書化した情報を含めなければならない。
a) この規格が要求する文書化した情報
b) 品質マネジメントシステムの有効性のために組織が必要であると決定した文書化した情報文書化した情報の範囲は、組織の規模、並びに活動、プロセス、製品及びサービスの種類、プロセス及びその相互作用の複雑さ、並びに人員の力量に依存する。
品質マネジメントシステムに必要な文書化情報として、規格が要求するものと、組織が有効性確保のために必要と判断したものを含めるように求めています。
7.5.2 作成及び更新
ISO9001の要求事項7.5.2 作成及び更新における文書管理について大まかに以下の通りです。
ISO 9001:2015「7.5.2 作成及び更新」
文書化した情報を作成又は更新するとき、組織は次の事項を確実にしなければならない。a) 識別(名称、日付、作成者、参照番号など)
b) 形式(言語、ソフトウェアのバージョン、図表など)及び媒体(紙、電子媒体)
c) 適切性及び妥当性のためのレビュー及び承認
文書化情報を作成または更新する際は、名称・日付などの識別、言語・媒体などの形式、そして適切性・妥当性を確認するレビュー・承認の実施を求めています。文書の正確性と信頼性の確保において不可欠な要素です。
7.5.3 文書化した情報の管理
ISO9001の要求事項7.5.3 文書化した情報の管理における文書管理については、おおまかに以下の通りです。
ISO 9001:2015「7.5.3 文書化した情報の管理」
7.5.3.1
品質マネジメントシステム及びこの規格が要求する文書化した情報は、次の事項を確実にするために管理しなければならない。
a) 必要とする時に、必要な場所で利用できること
b) 適切に保護されること(例えば、機密保持のための保護、不正使用または完全性の損失の防止)7.5.3.2
文書化した情報の管理において、該当する場合には、必ず次の活動を取り扱わなければならない。
a) 配布、アクセス、検索及び利用
b) 保管及び保存(判読可能な状態の維持を含む)
c) 変更の管理(版の識別を含む)
d) 保持及び廃棄組織が、外部からの起源をもつ文書化した情報を必要と判断した場合、必要に応じてそれらを識別し、管理しなければならない。
適合の証拠として保持する文書化情報は、意図しない改変から保護しなければならない。
文書化した情報にアクセスするとは、閲覧のみを許可する場合と、文書化した情報及びそれを変更する権限を与える場合の両方を意味する。
必要なときに必要な場所で利用できる状態を確保しつつ、機密性および完全性の保護を求めています。配布およびアクセス管理、保管、変更管理、廃棄などの活動を適切に実施し、外部由来の文書も必要に応じて識別・管理するように規定されている項目です。
要求事項で文書化が求められている事項
ISO9001:2015 において文書化が求められている事項のうち、維持(Maintain) と 保持(Retain) が義務付けられているものは以下のとおりです。
維持(Maintain)する文書
項目 | 内容 |
---|---|
QMSの適用範囲 | 4.3:品質マネジメントシステムの範囲を文書として維持する。 |
QMSのプロセス | 4.4.2a:プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する。 |
品質方針 | 5.2.2:品質方針を文書として維持する。 |
品質目標 | 6.2.2:品質目標およびそれを達成するための情報を文書として維持する。 |
QMS運用に必要な文書情報 | 7.5.1b:組織が有効性確保のために必要と判断した文書化情報を維持する。 |
保持(Retain)する記録
項目 | 内容 |
---|---|
プロセス運用証拠 | 4.4.2b:プロセスが計画どおりに実施された証拠を保持する。 |
測定機器の適格性 | 7.1.5.1:測定・監視資源が適切に機能している証拠を保持する。 |
校正基準の根拠 | 7.1.5.2a:校正の基準に関する情報を保持する。 |
人員の能力証明 | 7.2d:人員の能力に関する記録を保持する。 |
製品・サービス要求の レビュー結果 |
8.2.3.2a:要求事項レビューの結果を保持する。 |
新たな要求事項 | 8.2.3.2b:製品及びサービスに関する新たな要求事項を保持する。 |
設計・開発関連記録 | 8.3:入力、出力、制御、変更など設計・開発に関する記録を保持する。 |
外部提供者の評価結果 | 8.4.1:外部プロセスや供給者に関する評価・対応の記録を保持する。 |
トレーサビリティ・ 顧客財産関連・提供の変更 |
8.5:識別、トレーサビリティ、顧客財産の損傷報告、提供の変更などの記録を保持する。 |
製品のリリース | 8.6:製品・サービスの適合証拠と承認者の記録を保持する。 |
不適合の管理 | 8.7.2:不適合とその処置に関する記録を保持する。 |
QMS評価結果 | 9.1.1:測定・分析・評価の結果を保持する。 |
内部監査 | 9.2.2f:監査プログラムおよび結果を保持する。 |
経営レビュー | 9.3.3c:経営レビューの結果を保持する。 |
是正処置結果 | 10.2.2:是正処置に関する記録を保持する。 |
上記以外のマニュアル類の文書化は任意であるものの、企業・組織自身が必要と判断した情報は文書化して共有するよう推奨されています。
ISO9001の要求事項に準拠する文書管理のポイント
ISO9001の要求事項に準拠する文書管理を行うには、以下の項目に留意すべきです。
- 最新版文書の維持・管理
- 文書のアクセシビリティとセキュリティのバランス
- 文書の有効性・適切性に関する定期的な見直し
以下では、文書を単に保管するのではなく、規格に準拠した管理を実施するうえで重要な要素について解説します。
最新版文書の維持・管理
ISO9001に準拠した文書管理では、最新版の文書を常時利用できる状態での維持・管理が不可欠です。維持・管理するすべての文書は改訂番号および版数、作成日、承認者などを明確にし、改訂履歴を記録・管理して旧版の誤使用を防止します。
また、電子媒体・紙媒体に関わらず、関係者が必要なときに迅速にアクセスできる体制の整備も必要です。これにより、手順の統一および品質の一貫性が確保され、内部監査・外部審査においても信頼性を裏付ける証拠として提示できます。
文書のアクセシビリティとセキュリティのバランス
ISO9001における文書管理では、アクセシビリティとセキュリティの適切なバランスの確保が不可欠です。必要な情報は、関係者が業務に支障なく迅速にアクセスできる状態を維持しつつも、不正利用および改ざん、情報漏えいを防ぐためのセキュリティ対策を講じる必要があります。
アクセシビリティとセキュリティのバランスを確保するには、アクセス権限を階層的に設定し、閲覧専用と編集可能を明確に区分する方法が有効です。電子媒体の場合、パスワード管理・暗号化、紙媒体では施錠保管などの管理手段を組み合わせます。こうした運用により、業務効率に直結するアクセシビリティの維持と、セキュリティ対策を両立します。
文書の有効性・適切性に関する定期的な見直し
ISO9001における文書管理では、文書の有効性と適切性を確保するため、定期的な見直しの実施が求められます。運用中の手順書および基準書は、実際の業務内容、法令・規格の変更に即しているかを確認し、必要に応じて改訂します。
見直しの際には、現場担当者・関連部門からのフィードバックを反映させ、実用性と整合性を高める工程も必要です。改訂後は責任者による承認プロセスを経て最新版として発行し、旧版の適切な廃止・保管により、誤使用・混乱を防止します。
文書の定期的な見直しサイクルを継続することは、品質マネジメントシステムの有効運用において不可欠であると言えます。
総括
本記事では、ISO9001における文書管理についての概要、要求事項で求められている項目について解説しました。
ISO9001における文書管理は、企業・組織が提供するサービスおよび商品における、品質の一貫性と信頼性を支える基盤です。最新版の文書を維持・管理し、アクセシビリティとセキュリティの両立、定期的な見直しの実施が求められます。
文書管理の適切な実施は、業務効率の向上、法令遵守、規格の要求事項に対する適合性の維持、セキュリティリスクの低減につながり、企業・組織の信頼性向上と持続的成長を支援する仕組みとして機能します。
この記事の編集者

QFSjapan編集部
ISO審査・認証サービスを提供する「株式会社QFSjapan」が運営。ISOを新たに取得する方や、すでに運用中の方のお悩みや知りたいことを中心にお届けします。ISOの専門家として、信頼できる情報をISO初心者の方でも分かりやすくお伝えできるよう心掛けていきます。