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      ISO14001は、企業・組織の活動、製品・サービスが環境に与える影響を適切に把握したうえで、継続的な改善が求められる環境マネジメントシステムの国際規格です。
2015年12月にCOP21で採択されたパリ協定で“気温上昇を抑制することを目指し、日本を含む参加国は、“ネットゼロ”を達成するため に努力することを目標とすることを決定しました。これを受け2021年9月にこの目標を達成することを支援するためにISO総会で採択されたロンドン宣言で”最新の気候変動調査の結果に沿って 規格へ反映すること“を決定した。2024年2月にはISO14001以外のマネジメントシステム規格を対象に追補改正が行われ、”気候変動が課題かどうかを決定する“ことを要求事項に追加しました。今や、環境問題は大きな関心毎となっており、ISO14001はその中核となると考えることができます。
「環境側面」と「環境影響」は、ISO14001に準拠した管理体制を構築するための中核を担う要素であり、正しい理解・管理が持続可能な経営の基盤となります。
本記事では、ISO14001における環境側面の定義および関連する要求事項、環境影響との関連性について、具体例とともに解説します。
ISO14001における「環境側面」とは
環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001における「環境側面」とは、企業・組織の活動および製品・サービスのうち、環境に影響を及ぼす可能性のある要素を指します。環境側面は、直接的または間接的に環境影響を引き起こすため、ISO14001において中核を担うプロセスです。以下では、環境側面の「環境」とはなにか、ISO14001における定義や要求事項について解説します。
環境側面が示す「環境」について
ISO14001における「環境」は、自然環境に限定されず、社会および人の生活に関わる幅広い対象を含みます。具体的には、大気、水質、土壌、動植物といった自然資源に加え、地域住民の健康・快適性なども環境の一部とみなされます。
例えば、製造拠点からの排水が、水質汚濁を引き起こすだけでなく、周辺住民の生活環境にも影響を及ぼすように、企業・組織は自らの活動が関与する環境の範囲を多角的に捉える必要があります。
ISO14001における環境側面の定義
環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001では、環境側面を「企業・組織の活動、製品、サービスが環境に与える要素」と定義しています。この定義には、直接的な影響のみならず、間接的な影響も含まれています。
例えば、製造工程における廃棄物排出は直接的影響、原材料調達にともなう環境負荷は間接的影響として捉えられるため、直接的影響および間接的影響の両面から要因を検討するプロセスが不可欠です。
また、環境側面は現在の影響に限らず、将来発生し得る影響も対象となります。環境側面は、環境マネジメントシステムにおける基盤的概念であり、環境側面の捉え方次第で、環境マネジメントシステムの体制構築にも影響を及ぼします。
環境側面に関する要求事項
ISO14001の要求事項においては、企業・組織が自らの環境側面を特定し、その中から著しい影響を及ぼす可能性のある項目を明確化するように求められています。この手順を通じて、環境目的および目標の設定が行われるため、計画的かつ効率的な管理体制の構築にも寄与します。ISO14001における環境側面に関する要求事項は、以下のとおりです。
| 条番号 | 要求事項の概要 | 
|---|---|
| 6.1.2 a | 企業・組織の活動、製品、サービスに関連する環境側面を特定すること | 
| 6.1.2 b | 環境側面が環境に及ぼす実際の影響または潜在的影響を決定すること | 
| 6.1.2 c | 著しい環境影響を及ぼす、または及ぼす可能性のある環境側面を決定すること | 
| 6.1.2 d | 新規開発、変更、計画された活動停止などを考慮し、環境側面を継続的に見直すこと | 
| 6.1.2 e | 外部委託を含め、組織が管理可能または影響を及ぼす範囲を考慮すること | 
| 6.1.2 f | 環境側面を特定・評価するための基準を確立し、維持すること | 
| 6.1.2 g | 環境側面に関する情報を文書化された情報として保持・更新すること | 
環境側面の特定は一度限りの活動ではなく、事業活動および外部環境の変化に応じて継続的に見直す必要があります。継続的見直し・改善の実施により、関連する法令の遵守体制および環境リスクの低減が実現され、持続可能な経営体制の確立が実現します。
ISO14001における環境側面と環境影響の関係性

ISO14001において「環境側面」と「環境影響」は密接に関連しています。環境側面の正しい特定と環境影響の重大性評価は、リスク及び機会を適切に管理し、持続可能な事業運営を実現する基盤となります。以下では、それぞれの概要と関係性について解説します。
環境側面とは
環境側面とは、企業・組織の活動、製品、サービスが環境に与える要素を指します。直接的に排出される廃棄物・排ガスのみならず、間接的に関与する資源消費および取引先での環境負荷に関する検討も不可欠です。
環境マネジメントシステムにおいては、環境側面の網羅的な特定が管理体制構築の出発点となります。環境側面を特定したのち、各側面の影響度を評価し、著しい環境側面を決定することで、優先的に管理すべき対象を明確にする必要があります。
環境影響とは
環境影響とは、特定された環境側面が環境に対して実際に、または潜在的に及ぼす変化を指します。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、生態系の破壊、あるいは資源枯渇などが環境影響の例として挙げられる項目です。
環境影響は正の影響と負の影響の両面を併せ持つため、負の影響のみならず正の影響についての検討も求められます。省エネルギー活動による温室効果ガス削減、リサイクル活動による資源循環の促進などが、正の環境影響に関する例です。
企業・組織は環境影響の重大性を評価し、著しいものについては管理策の検討が求められます。ISO14001規格において、環境マネジメントシステムは単なるリスク回避策ではなく、持続可能な発展に貢献するプロセスです。正の環境影響も管理策に含めたうえで、継続的改善へ向けて、正・負双方の環境影響を考慮し、継続的改善に結びつけることが重要です。
環境側面と環境影響の関係性
環境側面と環境影響は原因と結果の関係にあります。環境側面は「環境と相互作用する要素」であり、環境影響は「その結果として環境に生じる変化」です。例えば、工場の燃料使用は環境側面であり、それにともなう二酸化炭素排出および大気汚染は環境影響に該当します。
ISO14001では、環境側面を適切に特定したのち、環境側面から導かれる環境影響について評価します。このプロセスを通じて、企業・組織は著しい環境側面を明確にし、リスクの低減と機会の活用を図ることで、持続可能な運営体制の確立につなげることが求められます。
ISO14001における環境側面・環境影響の具体例

環境側面と環境影響を検討する際には、インプットとアウトプットの観点から整理し、環境影響を評価することが有効です。インプットは「環境に影響を与える可能性のある投入物(例:エネルギー、水、原材料)」、アウトプットは「活動の結果として発生する排出物や副産物(例:廃棄物、排ガス、排水)」を指します。
このように整理することで、環境側面と環境影響を網羅的に把握し、適切な管理につなげることが可能です。以下では、ISO14001における環境側面および環境影響を、業種別にインプット・アウトプットの具体例とあわせて紹介します。
製造業における環境側面と環境影響
製造業におけるインプット・アウトプットを踏まえた環境側面と環境影響の例は、以下のとおりです。
| インプット | アウトプット | 環境側面 | 環境影響 | 
|---|---|---|---|
| 電力・燃料 | CO₂排出 | 電力・燃料の使用 | 地球温暖化の促進 | 
| 化学物質 | 排ガス・排水 | 化学物質の利用 | 大気汚染・水質汚濁 | 
| 原材料 | 製造廃棄物 | 廃棄物排出 | 土壌汚染・資源枯渇 | 
| 機械稼働 | 騒音・振動 | 機械の稼働 | 地域社会への影響 | 
製造業はエネルギーおよび原材料の大量投入、化学物質の使用などにより多岐にわたる環境側面を抱えます。事業活動において、CO₂排出、水質汚濁、廃棄物の増加といった深刻な影響が生じやすい業種です。
とくに資源消費の規模が大きいため、環境影響の範囲が広く、企業・組織は優先的に対応すべき側面を特定したうえで適切に管理する必要があります。
建設業における環境側面と環境影響
建設業におけるインプット・アウトプットを踏まえた環境側面と環境影響の例は、以下のとおりです。
| インプット | アウトプット | 環境側面 | 環境影響 | 
|---|---|---|---|
| 建設資材 | 廃材 | 資材利用 | 天然資源の消費・森林破壊 | 
| 燃料 | 排ガス | 重機燃料使用 | 大気汚染・CO₂排出 | 
| 水・電力 | 騒音・粉じん | 工事作業 | 生活環境の悪化・健康被害 | 
| 化学物質 | 汚泥・排水 | 化学物質利用・処理 | 水質汚濁 | 
建設業は短期間の工事においても、資材利用および重機稼働にともなう燃料消費が大きく、廃材、粉じんなど多様なアウトプットを発生させます。大気汚染、水質汚濁、周辺住民の健康被害といった環境影響が顕在化するため対策が不可欠です。
また、天然資源の大量使用は持続可能性の観点からも課題となります。そのため、資材の再利用、低公害機械の導入、現場ごとの適切な環境管理が対策として求められます。
運輸・物流業における環境側面と環境影響
運輸・物流業におけるインプット・アウトプットを踏まえた環境側面と環境影響の例は、以下のとおりです。
| インプット | アウトプット | 環境側面 | 環境影響 | 
|---|---|---|---|
| 燃料 | 排ガス | 車両運行 | CO₂・NOx排出による大気汚染 | 
| エネルギー | 騒音・振動 | 車両稼働 | 地域環境悪化 | 
| 梱包材 | 廃棄物 | 包装資材利用 | ごみ問題・資源枯渇 | 
| 労働力 | 空気汚染 | 非効率輸送 | エネルギー浪費 | 
運輸・物流業は燃料使用に大きく依存しており、CO₂(二酸化炭素)およびNOx(窒素酸化物)の排出が地球温暖化・大気汚染に直結します。車両騒音・振動が、地域住民の生活環境に悪影響を及ぼす点にも対策が不可欠です。
加えて、梱包材の利用にともなう廃棄物問題も顕在化しており、物流効率の低下はエネルギー浪費による不要な環境負荷を増大させる要因になり得ます。環境影響を低減するには、省エネ車両・電気自動車の導入、輸送ルートの最適化、梱包材の再利用などの取り組みが不可欠です。
小売・サービス業における環境側面と環境影響
小売・サービス業におけるインプット・アウトプットを踏まえた環境側面と環境影響の例は、以下のとおりです。
| インプット | アウトプット | 環境側面 | 環境影響 | 
|---|---|---|---|
| 電力 | CO₂排出 | 店舗電力使用 | 地球温暖化の進行 | 
| 包装材 | プラごみ | 包装利用 | プラスチックごみ問題 | 
| 食品 | 廃棄物 | 食品ロス | 資源ロス・廃棄物増加 | 
| 空調設備 | 温室効果ガス | 冷暖房使用 | 温室効果ガスによる地球温暖化 | 
小売・サービス業では、店舗運営にともなう電力使用・空調稼働が主要な環境側面です。包装材利用、および食品廃棄による資源ロスも課題として挙げられます。
とくに食品ロスは、廃棄コストの増大だけでなく社会的関心も高く、企業イメージに影響を及ぼす可能性があります。環境影響を軽減するには、省エネ設備導入、プラスチック削減、食品ロス削減活動などの体系的な取り組みが肝要です。
情報通信・オフィス業務における環境側面と環境影響
情報通信・オフィス業務におけるインプット・アウトプットを踏まえた環境側面と環境影響の例は、以下のとおりです。
| インプット | アウトプット | 環境側面 | 環境影響 | 
|---|---|---|---|
| 電力 | CO₂排出 | IT機器利用 | エネルギー消費拡大 | 
| 紙 | 廃棄紙 | 書類作成 | 森林資源の消費 | 
| 機器 | 電子廃棄物 | 廃棄PC等 | 有害物質の流出 | 
| 空調 | 温室効果ガス | オフィス空調 | 地球温暖化への寄与 | 
情報通信・オフィス業務は、他産業に比べ直接的な環境負荷は小さいものの、電力消費・紙使用が主要な環境側面となります。とくに、IT機器・サーバー稼働にともなう電力使用は増加傾向にあり、温室効果ガスが発生する要因です。
また、電子廃棄物は有害物質の流出リスクを抱えており、ペーパーレス化・省エネ機器の導入、リユース促進などによる対応策が求められます。
金融・保険業における環境側面と環境影響
金融・保険業におけるインプット・アウトプットを踏まえた環境側面と環境影響の例は、以下のとおりです。
| インプット | アウトプット | 環境側面 | 環境影響 | 
|---|---|---|---|
| 電力・紙 | CO₂排出・廃棄紙 | オフィス業務 | エネルギー消費・森林資源の消費 | 
| ITインフラ | CO₂排出 | サーバー稼働 | 温室効果ガス排出 | 
| 交通手段 | 排ガス | 出張・移動 | 温室効果ガス増加 | 
| 投融資資金 | 間接的影響 | 投融資活動 | 環境破壊または改善 | 
金融・保険業は、直接的な環境負荷は比較的小さいものの、オフィス業務における電力・紙使用およびサーバー運用が主な環境側面です。また、投融資先を通じて間接的に環境影響を及ぼすのも金融・保険業の特徴です。
ESG投資およびサステナブルファイナンスの推進により、環境負荷の低減と同時に企業の社会的責任を果たす姿勢が求められます。
「著しい環境側面」とは?重要性について
「著しい環境側面」とは、ISO14001において企業・組織の活動および製品・サービスの中で、環境に大きな影響を及ぼす可能性が高い要素を指します。環境側面のすべてが同じ重要度を持つのではなく、影響の規模・深刻さ、法規制との関連性を踏まえて、重要度が高いと評価されたものが「著しい」と判断されます。
大規模なCO₂排出および有害物質の使用・廃棄などは、典型的な著しい環境側面の例です。このような著しい環境側面の適切な特定・管理により、企業・組織は法令遵守を確実にするとともに、法規制違反や社会的信用の失墜などのリスクを低減できます。
著しい環境側面の特定・管理は、環境パフォーマンス(環境側面の管理や環境目標の達成に関する成果)を継続的に改善するため、優先課題を明確化するうえでも不可欠な要素です。これにより、環境マネジメントシステム全体の有効性が向上するため、著しい環境側面の管理は、ISO14001の中核的なプロセスとして位置づけられています。
総括
本記事では、ISO14001における環境側面の定義や要求事項、環境影響との関係性、具体例について解説しました。
ISO14001における環境側面と環境影響の正しい理解は、持続可能な経営に直結します。著しい環境側面の特定、体系的な管理は、法令遵守、リスク低減に加え、環境パフォーマンスの改善を推進する重要な要素です。
ISO14001の要求事項に適合する管理体制の構築は、企業・組織の社会的信頼性向上と長期的な企業価値の創出に寄与します。
この記事の編集者
 
      QFSjapan編集部
ISO審査・認証サービスを提供する「株式会社QFSjapan」が運営。ISOを新たに取得する方や、すでに運用中の方のお悩みや知りたいことを中心にお届けします。ISOの専門家として、信頼できる情報をISO初心者の方でも分かりやすくお伝えできるよう心掛けていきます。

 
           
              
 
             
             
            




