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情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格であるISO27001認証の取得およびシステム運用において、内部監査は企業・組織の情報セキュリティ体制が適切に機能しているかを検証する重要なプロセスです。
内部監査を通じて、情報セキュリティマネジメントシステムの運用上の不備・改善点を把握し、継続的な改善による管理体制の強化を図る必要があります。一方で、監査項目の抜け漏れ、判断基準の不統一が課題となる場合もあり、解決策の一つとしてチェックリストの活用が効果的です。
本記事では、ISO27001内部監査の概要・目的について基本的な説明をするとともに、チェックリストを活用する意義および作成方法、実務での活用例について解説します。
ISO27001の内部監査とは?
ISO27001の内部監査とは、運用している情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)が規格要求事項、および自社の運用ルールに適合しているかを確認するために、企業・組織が自身で実施する評価プロセスです。以下では、内部監査の目的と役割、実施頻度、審査機関による外部審査との違いについて解説します。
内部監査の目的と役割
内部監査は、企業・組織のマネジメントシステムがISO27001規格の要求事項、および企業・組織が定めた方針・手順などに適合しているかを自らが客観的に確認する目的で実施されるものです。ISO27001規格の要求事項に対する不適合の指摘のみならず、マネジメントシステムの運用状況の把握を通して、改善の機会を創出する役割も担います。
加えて、経営層がシステムの有効性を把握するための基礎情報を提供するのも、内部監査の主要な役割です。内部監査の適切な実施により、リスクの早期発見および継続的改善を促す体制が構築され、業務品質の向上と企業・組織に対する信頼性確保が実現します。
内部監査の実施頻度とタイミング
ISO27001の内部監査を実施する頻度は、1年毎や6か月毎など、あらかじめ定めた間隔で実施することが求められており、かつ最低一般的に年1回必要です。企業・組織の規模および業務の性質、リスクの程度に応じた柔軟な設定が必要です。定期的な内部監査の実施に加え、新規事業の開始、組織改編、重大な不適合の発生時には、臨時監査の実施が必要と考えられる場合もあります。
内部監査のタイミングについては、マネジメントレビューの前が望ましい時期です。マネジメントレビューの際に内部監査の結果を提示すれば、経営層の判断材料として経営戦略の策定に反映できます。
内部監査と外部審査の違い
監査にはその実施者によって3つあります。第一者監査、第二社監査、第三者監査です。いずれもマネジメントシステムの適合性や有効性を確認しますが、目的が異なります。第一者とは自分自身のことなので、内部監査を指します。第三者とは利害関係がないことで、審査機関を指します。そして、見落とされがちなのは第二社で取引先を指します。内部監査(第一者監査)は、企業・組織自らが内部の業務プロセスを詳しく確認し、改善の機会を見出す「自己評価」の性格を有します。
一方、外部審査(第三者監査)は、審査機関が独立した立場から、システムの適合性と有効性を評価するものです。外部審査はISO認証の維持・更新を目的とするのに対し、内部監査は日常運用の改善と管理体制の安定化を目的としています。
そして、第二社監査は主に新規取引や継続取引に関する意思決定の参考に実施します。この場合、審査基準はISO規格だけでなく、取引先のポリシーやルールも含まれることが多いです。
関連記事:ISO内部監査とは?目的・進め方・質問例と実施する際のポイントについて解説
ISO27001の内部監査でチェックリストを活用するメリット
ISO27001の内部監査でチェックリストを活用するメリットは、以下のとおりです。
- 内部監査の一貫性と客観性が保てる
- 内部監査の重要項目の抜け・漏れを抑止できる
- リスクアセスメントとの整合性を確認できる
- 記録・証跡の管理が容易になる
- 審査機関による外部審査の対応を円滑化できる
上記項目ごとに、具体的な内部監査の際にチェックリストを用いる効果、および企業・組織に対する好影響について解説します。
内部監査の一貫性と客観性が保てる
チェックリストを用いて内部監査を計画的かつ体系的に実施すれば、監査の一貫性と客観性を確保できるメリットが見込まれます。評価基準を含む監査の手順が標準化され、監査員ごとの判断基準の差が縮小し、評価の公平性を維持できるためです。
また、統一された手順に基づいた内部監査の実施により、主観的な意見ではなく、客観的な証拠に基づいた評価体制が整います。加えて、複数の監査員による相互確認を実施すれば、内部監査の客観性向上にも寄与します。
内部監査の重要事項の抜け・漏れを抑止できる
チェックリストであらかじめ監査の対象項目を体系的に整理すれば、確認すべき重要事項の抜け・漏れの抑止が可能です。チェックリストに加えて、過去の内部監査結果を参照しながら実施すれば、要求事項の体系的な確認が可能となり、監査の網羅性が担保されます。
内部監査全体の精度を高める目的で、複数の監査員によるクロスチェックを導入する場合もチェックリストが役立ちます。内部監査時のチェックリストの活用は、監査の円滑な進行のみならず、企業・組織の継続的な改善基盤の強化、およびマネジメントシステムの成熟度を高めるうえで有効な手段です。
リスクアセスメントとの整合性を確認できる
内部監査時のチェックリストの活用は、リスクアセスメントで特定されたリスクと、マネジメントシステムの運用状況との整合性確認にも効果的です。内部監査を通じて、リスク低減策が実効的に機能しているか、管理手順が遵守されているかを客観的に検証できます。
とくにISO27001規格が定める情報セキュリティの分野では、リスク評価結果と運用管理の整合性確認が不可欠です。チェックリストの活用で内部監査とリスクアセスメントの整合性が確認されれば、ISO認証取得のための形式的な審査対応にとどまらず、実際の運用に根差したリスク管理体制を維持できます。
記録・証跡の管理が容易になる
チェックリストを用いた内部監査の実施は、監査計画、指摘事項、是正処置の結果などの記録管理が容易になるメリットも見込まれます。内部監査に必要な情報を整理できるため、過去の監査履歴の迅速な参照、再発防止策の検証、傾向分析の精度向上にも効果的です。
また、内部監査の証跡を明確に整理・管理できていれば、経営層・審査機関に対して説明責任を果たす際の根拠資料としても容易に提示できます。チェックリストを活用した内部監査により、ISO27001認証の取得およびマネジメントシステムシステムの運用に必要な、記録・証跡の管理そのものの正確性向上・効率化が実現します。
審査機関による外部審査の対応を円滑化できる
チェックリストを用いた内部監査の継続的な実施は、指摘事項の適切な是正処置に寄与し、外部審査への対応を円滑に進めるうえでも有効です。内部監査の段階でISO27001規格の要求事項に対する不適合、潜在的なリスクを事前に把握し改善できるため、外部審査での指摘を最小限に抑えられます。
また、内部監査記録および是正処置報告をチェックリストに基づいて整備するのは、審査員に対してシステム運用の有効性を明確に示すうえでも効果的です。内部監査を通じて得られた改善点、ならびに実施した是正処置に関する情報は、外部審査を通じて企業・組織の継続的改善へ向けて取り組む姿勢として評価され、顧客信頼性の向上にも寄与します。
ISO27001の内部監査で活用するチェックリストの作成方法

チェックリストは、単なる箇条書きされた必要事項ではなく、内部監査時の活用を念頭においた整理・構成が不可欠です。以下では、ISO27001の内部監査で役立つチェックリストの作成方法について解説します。
1.チェックリストの目的と範囲を明確にする
内部監査で活用するチェックリストを作成する際は、まずその目的と適用範囲を明確に定義する必要があります。ISO27001の内部監査の主な目的は、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)についての規格要求事項、および自社の運用ルールとの適合性確認です。
チェックリストを作成する際は、「どの部門・拠点・業務プロセスを対象とするのか」を明示します。内部監査の目的と範囲の明確化により、監査員が確認すべき事項を的確に把握できるため、チェック項目の重複・抜け・漏れを防止できます。
関連記事:ISOの「適用範囲」の決め方とは?認証範囲との違いと適用除外について解説
2.ISO27001の要求事項に合わせて構成する
内部監査で使用するチェックリストは、ISO27001の要求事項に基づいた体系的に構成する必要があります。とくに、2022年に実施された附属書Aにおける管理策の改訂に対応すべく、設問項目の整理・最新化が不可欠です。
「企業・組織の状況」「リーダーシップ」、「計画・運用」「パフォーマンス評価」「改善」といった、ISO27001規格の章立てに沿った構成により、規格全体との整合性確認が容易になります。また、チェックリストの各項目と、対応する自社の文書化情報(セキュリティポリシー、手順書、記録など)の所在をあらかじめ紐づけておけば、内部監査時に効率的な確認が可能となり、証拠の追跡性も担保できます。
3.リスクアセスメントとの対応関係を整理する
チェックリストを作成する際、各監査項目とリスクアセスメントとの対応関係に関する明確化が肝要です。ISO27001では、リスク特定から評価・対応策の実施までを体系的に管理するよう求めており、監査項目にもその流れを反映させる必要があります。
たとえば、「特定されたリスクは最新のものか」「リスク対応計画は実施・評価されているか」など、リスク管理プロセスの有効性を確認できる内容を盛り込むのも効果的です。
4.評価基準と判定ルールを明確化する
内部監査で活用するチェックリストには、各監査項目に対してどのような基準で評価・判定するかを明確化する必要があります。
「適合」「一部不適合」「不適合」などの評価分類を定義し、それぞれの判断基準を事前に明確にしておくと、監査員間で評価の一貫性が保たれます。また、是正処置が必要な場合の優先度、および対応期限を明確にするのも、改善活動の迅速化につながる不可欠な要素です。
5.監査結果を記録できるフォーマットに整理する
内部監査の結果を正確に記録・管理するには、チェックリストをそのまま記録媒体としてフォーマットに整理するのも有効な手段です。各項目に「確認内容」「証拠資料」「判定結果」「改善提案」などの欄を設ければ、内部監査時の記録が漏れなく残せます。
記録された情報は、マネジメントレビューおよび次回の内部監査時の参考資料として再利用できるため、改善の継続性を支える重要な証跡となります。
【無料サンプル付き】ISO27001の内部監査で活用できるチェックリストの例
ISO27001の内部監査で活用できるチェックリストの例は、以下のとおりです。監査項目を追加する際は、以下のフォーマットを活用すれば、内部監査時の評価基準として活用できます。
| 番号 | 監査項目(ISO27001要求事項) | 確認内容 | 証拠・確認資料 | 判定結果 | 是正の要否 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 4.1 組織の状況 | 企業・組織の内部・外部の課題が特定され、ISMSの目的に関連づけて文書化されているか。 | リスク分析資料、環境分析表 | ○ | 不要 |
| 2 | 4.3 適用範囲の決定 | ISMSの適用範囲が明確に定義され、除外項目の妥当性が説明できるか。 | 適用範囲文書、組織図 | △ | 要是正(除外理由の明確化) |
| 3 | 5.2 情報セキュリティ方針 | 情報セキュリティ方針が策定され、全従業員に周知されているか。 | 方針文書、社内掲示、教育記録 | ○ | 不要 |
| 4 | 6.1.2 リスクアセスメント | リスク特定、評価、対応の手順が確立され、定期的に見直されているか。 | リスクアセスメント結果、更新履歴 | △ | 要是正(更新頻度の見直し) |
| 5 | 7.2 力量 | ISMSに関わる要員の力量が教育・訓練によって維持されているか。 | 教育計画、受講記録 | ○ | 不要 |
| 6 | 8.1 運用の計画および管理 | リスク対応策が運用プロセスに組み込まれ、管理策が有効に実施されているか。 | 運用手順書、操作ログ | ○ | 不要 |
| 7 | 9.1 監視・測定・分析・評価 | 情報セキュリティのKPIが設定され、定期的に分析・報告されているか。 | 評価報告書、マネジメントレビュー議事録 | △ | 要是正(指標の見直し) |
| 8 | 9.2 内部監査 | 内部監査計画が策定され、監査結果と是正処置が適切に記録されているか。 | 監査計画書、監査報告書 | ○ | 不要 |
| 9 | 10.2 不適合および是正処置 | 不適合の原因分析が実施され、再発防止策が効果的に実施されているか。 | 是正処置記録、改善報告書 | △ | 要是正(原因分析の精度向上) |
| 10 | 附属書A(管理策) | アクセス制御、バックアップ、インシデント対応などの管理策が有効に実施されているか。 | 運用記録、アクセス権限表、ログデータ | ○ | 不要 |
チェックリストを活用したISO27001の内部監査の流れ

チェックリストを活用する場合、ISO27001の内部監査は以下の流れで実施します。
内部監査計画の策定
内部監査では、まず監査計画の策定が必要です。対象部門、監査日程、監査員、監査目的などを明確にし、年間計画を立ててチェックリストに記載します。これにより、内部監査実施時の対象範囲や日程、監査員などの情報を記録・管理できます。
チェックリストの作成と事前確認
監査対象に基づいてチェックリストを作成し、関連文書および過去の監査結果を事前に確認します。ISO27001の要求事項、リスクアセスメントの内容などを反映させ、内部監査の焦点の明確化が肝要です。
内部監査の実施
事前に立てた内部監査計画に基づいて現場監査を行い、手順の遵守状況およびマネジメントシステムの運用状況を確認します。担当者へのヒアリング、記録・証跡の照合を通じて、規格要求との適合性を評価する段階です。
内部監査の結果整理と報告
内部監査実施後は、指摘事項および是正処置が必要な点を整理し、監査報告書にまとめます。指摘事項で不適合があった場合、その重大度と影響範囲を監査報告書に記述する対応も不可欠です。経営層および関係部門に共有した際の、対応優先度の検討に役立ちます。
是正処置対応
内部監査で確認された不適合に対して、原因を分析し、是正処置を実施します。単なる現状への対応ではなく、根本原因の特定および再発防止策の実施が肝要です。是正処置対応の結果は記録として残し、次回監査でのフォローアップ、外部監査時の提示資料として活用します。
総括
本記事では、ISO27001の内部監査の概要・目的について基本的な説明をした上で、実際の監査で役立つチェックリスト作成方法、メリットについて解説しました。
チェックリストを活用すれば、内部監査の抜け漏れを防ぎ、客観的で一貫性のある評価が可能となります。内部監査でのチェックリストの活用は、企業・組織全体の情報セキュリティ水準向上と、継続的改善に寄与する内部監査の実施に有効な手段です。
この記事の編集者
QFSjapan編集部
ISO審査・認証サービスを提供する「株式会社QFSjapan」が運営。ISOを新たに取得する方や、すでに運用中の方のお悩みや知りたいことを中心にお届けします。ISOの専門家として、信頼できる情報をISO初心者の方でも分かりやすくお伝えできるよう心掛けていきます。






