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建設業におけるISO認証の必要性とは?メリットと経営事項審査(経審)での加点の仕組みを解説

建設業におけるISO認証の取得は、公共工事の入札参加および企業・組織の評価において重要な要素です。品質・環境・労働安全・情報セキュリティなどのISO規格での認証取得により、企業・組織としての管理体制が国際規格(ISO)に適合している証明となります。

経営事項審査(経審)とは、共工事の入札に参加する建設業者が必ず受けなければならない、企業の「経営規模」「経営状況」「技術力」「社会性等」を客観的に評価する審査です。ISO認証は、この経営事項審査(経審)における加点要素として評価されます。認証取得は信頼性の向上と入札競争力の強化の双方に寄与する取り組みです。

本記事では、建設業におけるISO認証取得の必要性および推奨される規格の種類、取得するメリット、経営事項審査(経審)における加点の仕組みについて体系的に解説します。

建設業におけるISO認証取得の必要性とは?

建設業においてISO認証取得が必要とされるのは、公共工事への入札参加要件・評価および企業・組織の信頼性向上に直結するためです。

ISO認証を取得するには、第三者の審査機関による外部審査で、国際標準化機構(ISO)が定めるマネジメントシステム規格に適合した管理体制の運用を認められる必要があります。以下では、建設業におけるISO認証取得の必要性とその理由について解説します。

「建設産業政策大綱」(1995年)から始まった建設業での必要性

建設業においてISO認証取得がはじまったのは1995年に当時の建設省(現在の国土交通省)が策定した「建設産業政策大綱」(以降、政策大綱)がきっかけです。

従来の建設行政あるいは政策を大きく変えたできごとで、当時の建設業界では相当なインパクトでした。政策大綱では3つの目標が設定されたが、その中の一つに「エンドユーザーにトータルコストで良いものを安く提供する」があった。それまでの業界では“良いものはそれなりの費用が掛かる”が当たり前であったが、”良いものを安く“と掲げました。

さらに、これを実現するために”総合的な品質・安全確保への取り組み“の中で”建設の各工程で社内の検査基準、検査体制の確立に始まり、建設生産システム全体として品質を目指すため、従来から取り組んできた総合的な品質管理、さらにはISO9000s等の国際規格に積極的に取り組んでいくことが必要です。

なお、ISO9000sと表記しているが、当時の規格は1994年版であり、設計・開発を適用するか否かにより、ISO9001とISO9002の2つの規格が存在したため、これらを総称してこのような表現となっています。
その後、環境問題が国際的に深刻になり、ISO14001の制定、サイバーセキュリティ対策が叫ばれ、ISO27001の制定、これらの規格改訂等を経て、今日に至っているのです。

公共工事入札での信頼性向上と経審での加点

建設業におけるISO認証の取得は、公共工事入札時に企業・組織の信頼性を高める重要な要素となります。具体的には、ISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO27001(情報セキュリティ)、およびISO45001(労働安全衛生)を認証取得している企業・組織が、経営事項審査(経審)における加点の対象です。

経営事項審査(経審)で加点されれば入札参加資格の幅が広がるうえに、発注者から「信頼できる施工体制を持つ企業」として評価されます。公共工事の受注機会拡大、取引関係からの信頼獲得など、建設業における経営基盤の安定化にも寄与します。

(注)主に加点の対象となるのは、ISO9001(品質)とISO14001(環境)です。ISO27001とISO45001が加点の対象に含まれるかは、官公庁によって異なります。評価得点の対象および得点にも差異があるため、詳細は各官公庁が公開している情報の確認が必要です。以下の内容もこの点をご留意ください。

品質・環境・情報セキュリティ・労働安全に配慮した管理体制の整備

ISO認証の取得は、建設現場における品質・環境・情報セキュリティ・労働安全といった、重要要素を体系的に管理体制の整備状況を証明する手段です。たとえば、ISO9001で品質管理プロセスを明確化し、ISO14001で環境負荷を最小化する取り組みの推進、ISO27001で情報セキュリティリスクへの対策、ISO45001で労働安全衛生リスクの低減を対外的に示せます。

また、ISO規格に適合している複数のマネジメントシステムを統合的に運用すれば、施工品質の安定、環境保全、事故防止といった社会的責任を果たす経営体制の確立が可能です。

企業・組織の信用力・入札競争力の向上

ISO認証は、品質・労働安全・情報セキュリティ・環境などの国際規格への第三者の審査機関による適合証明であり、企業・組織の信用力を客観的に示す証左となります。とくに建設業界では、発注者・取引先からの信頼を得るための指標として重視される傾向にあります。

加えて、認証取得で必要となるISO規格に適合するマネジメントシステムの導入により、業務プロセスの標準化・効率化が実現し、コスト削減およびリスク低減、業務効率化の実現が可能です。競合他社との差別化においても、有効な手段として機能します。

建設業に適したISO規格の種類

ISO認証取得に取り組むにあたり、数あるISO規格から最適なものを選定する必要があります。業態・事業規模、あるいは経営課題、強化を図りたいテーマなどに応じた選定が必要です。以下では、建設業に適したISO規格の種類と、取得が推奨される理由について解説します。

ISO9001(品質マネジメントシステム規格)

ISO9001(品質マネジメントシステム規格)は、品質の安定化と顧客満足度の向上を目的とした国際規格です。規格の内容は、あらゆる業種・業態、組織規模で対応可能な構成であり、建設業でもスムーズに導入できます。

ISO9001の規格要求事項に適合したマネジメントシステムを構築すれば、設計から施工、引き渡しまでの全工程における品質管理を、体系的に実施できる体制が実現できます。加えて、再発防止、継続的改善の枠組みの整備により、施工品質の属人化を抑制できるほか、クレーム・手戻りの削減にも寄与します。

ISO14001(環境マネジメントシステム規格)

ISO14001(環境マネジメントシステム規格)は、建設業におけるさまざまな活動が環境に及ぼす影響を適切に管理し、持続可能な事業運営を実現するための国際規格です。
ISO14001の規格要求事項に適合したマネジメントシステムの構築により、廃棄物の削減および省エネルギー対策、再資源化の推進など、環境負荷の低減策について、企業・組織を挙げて推進する体制が構築できます。

建設現場では、騒音・振動・粉じんなどの周辺環境への配慮が求められます。ISO14001認証の取得は、環境に対する配慮姿勢を対外的に示せるため、地域社会との信頼関係を強化するうえでも有効な手段です。加えて、法令遵守体制の強化により、コンプライアンスに伴うさまざまなリスクを低減する効果も期待できます。

ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム規格)

ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム規格)は、労働災害の防止および安全で健康的な職場環境の整備を目的とする国際規格です。建設業は高所作業、重機運転など危険を伴う作業が多く、安全管理の徹底が求められます。

ISO45001規格に基づいて労働安全衛生マネジメントシステムの構築にあたって、リスクアセスメントおよび是正処置に関するプロセスの標準化により、災害発生率の低減と安全文化の定着が実現できます。加えて、認証取得への取り組み自体が、従業員の安全意識向上にも寄与するため、企業・組織全体における安全管理体制を確立するうえでも有効な国際規格です。

ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)規格)

ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)規格)は、情報資産の保護・管理を体系的に実施するための国際規格です。建設業では、設計図面・施工計画、入札情報など、機密性の高いデータを多数取り扱うため、情報漏えいおよび不正アクセスへの対策を講じる必要があります。

ISO27001規格に基づいた、情報セキュリティマネジメントシステムの構築により、情報資産の保護および管理に必要な体制の体系的な構築が可能です。サイバー攻撃、クラウド利用時のリスクにも対応できるため、取引先・発注者に対して高い情報管理水準を示す根拠となります。

関連記事:ISO規格の種類一覧|品質・環境・情報セキュリティなど主要規格を解説

建設業でISO認証を取得するメリット

ISO認証は幅広い業種・業態の企業・組織が取得しており、国際規格に適合したマネジメント体制の導入における有効な手段として広く認知されています。以下では、建設業におけるISO認証の取得メリットについて解説します。

公共工事入札での加点・評価につながる

建設業におけるISO認証の取得は、公共工事の入札で有利に働く要素です。ISO9001だけでなく、ISO14001、ISO27001、ISO45001などの認証を取得している企業・組織は、経営事項審査(経審)で加点対象となり、総合評定値の向上につながります。

認証取得により、公共工事の入札資格の拡大、発注者からの評価向上が見込まれ、落札確率の向上も期待されます。競争の激しい公共工事の市場における優位性を確保するうえで、信頼性の証明として有効な手段です。

関連記事:公共工事の入札にISO認証の取得は有利?経審(経営事項審査)における加点の仕組みとは

取引先・発注者からの信頼性が向上する

ISO認証は、第三者の審査機関による外部審査によって、企業・組織の管理体制の有効性を示す証左です。発注者・取引先に対し、国際規格に適合したマネジメント体制を証明できるため、信頼性向上に寄与します。

とくに元請・下請関係が複雑な建設業では、ISO認証が取引先選定の判断基準となる場合もあるため、安定した受注関係を築く手段としても有効です。

管理体制の強化を図れる

ISO認証取得にむけてのマネジメントシステムの導入は、企業・組織を挙げた品質・環境・情報セキュリティ・労働安全など、各分野の管理体制の強化に寄与します。業務規程・手順書などの文書類を標準化できるため、属人的な対応の抑制、業務の一貫性を確保するうえでも効果的な手段です。

また、問題発生時の原因分析および是正処置を体系的に実施できるため、再発防止の実効性も向上します。結果として、企業・組織全体におけるマネジメントシステムとしての精度が高まり、継続的改善につながる持続的な改善サイクルが実現します。

社員の意識改革・業務改善が促進される

ISO認証を取得する過程では、社員一人ひとりがマネジメントシステムに関与する意識を高める必要があります。

業務規程・手順を明文化すれば、情報共有が進みます。全員が共通の基準で業務を遂行できる体制の整備により、現場のミス抑制、業務効率化、管理体制の強化も図れます。PDCAサイクルを通じて改善を継続する文化が定着すれば、企業・組織全体の成長促進も実現可能です。

リスク低減につながる

ISO認証の取得は、事故やクレーム、法令違反などのリスクを体系的に管理する体制の構築につながります。ISO9001では品質トラブルの抑止、ISO14001では環境リスクへの対策、ISO27001では情報セキュリティリスクへの対応強化、ISO45001では労働災害防止が図れます。

各種ISO規格に適合したマネジメントシステムの導入によって、潜在的なリスクを早期に発見・是正できる体制が整うため、企業・組織としての事業基盤の強化および経営の安定化、持続可能な成長にも大きく貢献します。

関連記事:ISO取得のメリット・デメリットとは?企業経営にもたらす効果を解説

経営事項審査(経審)における加点の仕組みとは?

経営事項審査(経審)における加点の仕組みとは、企業の経営状況および技術力、社会性などを総合的に評価し、客観的な数値として点数化する国の制度をもとに、各官公庁が実施している制度です。

国・地方公共団体などが発注する公共工事の指名競争入札・一般競争入札に参加する場合、企業は必ず「経営事項審査(経審)」を受ける必要があります。以下では、建設業でのISO認証取得による、経営事項審査(経審)の加点の仕組みについて解説します。

経営事項審査(経審)における評価項目の概要

経営事項審査(経審)における評価は「経営規模」「経営状況」「技術力」「社会性等」の4区分で構成され、総合評定値(P点)として算出されます。

このうち「社会性等」の項目では、ISO認証の取得および労働安全衛生体制、法令遵守などが評価対象となり、企業・組織の信頼性や社会的責任への取り組みが数値化されます。

ISO認証が加点対象となる理由

ISO認証の取得が経営事項審査(経審)で加点対象となるのは、国際規格に適合した管理体制の構築状況を証明する手段として、有効性が認められているためです。

経営事項審査(経審)では、公共工事を担う企業・組織として継続的な品質確保および安全施工、環境保全の体制が求められるため、ISO認証取得は評価項目の「社会性等」において加点対象となります。

評価対象となる主なISO規格

経営事項審査(経審)で直接、加点対象となりうるISO規格は、ISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO27001(情報セキュリティ)、ISO45001(労働安全衛生)の4つです。これらはいずれも建設業における管理体制の信頼性を示す重要な指標とされています。

ISO9001は施工品質、ISO14001は環境配慮、ISO27001は情報管理、ISO45001は労働安全をそれぞれ評価対象とし、取得状況に応じて「社会性等(W点)」に加点される仕組みです。

主に加点対象とされるのは、ISO9001とISO14001です。一方沖縄県では、米軍施設、防衛関連施設が多く、公共工事における機密保持が重視されるため、ISO27001とISO45001も加点対象となる傾向にあります。このように、ISO27001とISO45001が加点対象になるかは、官公庁および地域特性によって差異があります。

ISO取得によるW点・P点の加算方法

経営事項審査(経審)では、ISO認証の取得により「社会性等(W点)」において、2点の加点が認められます。ISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO27001(情報セキュリティ)、ISO45001(労働安全衛生)などが対象で、複数の規格を取得している場合は項目ごとに加点される仕組みです。

これらの加点は総合評定値(P点)に反映され、入札資格に直接影響します。ISO認証の取得は単なる信用の証明にとどまらず、公共工事における実質的な競争力向上にも直結する要素となります。

総括

本記事では、建設業におけるISO認証取得の必要性、最適な規格、取得するメリット、ならびに経営事項審査(経審)における加点の仕組みについて解説しました。

ISO認証の取得は、建設業における信頼性や入札競争力を高める有効な手段です。持続的な成長を実現する経営基盤を築き、社会的評価を向上させるためにも、計画的な導入と成果につながる運用が求められます。

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