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企業の社会的責任(CSR)に対する要求が多様化する中、近年では、取引先からの要請への対応、CSR活動の一環としての取り組み、さらには企業イメージの向上を目的として、ISOマネジメントシステムの認証取得を推進する企業が増加傾向にあります。
ISO規格の中でも、ISO9001、およびISO14001及びISO/IEC27001は、業種や企業規模を問わず広く導入されている代表的な規格であり、いずれの規格を優先的に取得すべきか判断に迷う企業も少なくないでしょう。
本記事においては、中でも認証件数が多いISO9001・ISO14001の概要および両者の相違点を明らかにするとともに、それぞれの規格を取得している企業に見られる傾向についても解説します。
ISO9001とは
ISO 9001とは、国際標準化機構(ISO)が策定した「品質マネジメントシステム(QMS)」に関する国際規格です。世界中でもっともも広く普及しているマネジメントシステム規格の一つとして、多くの企業・組織で取り入れられています。以下では、ISO9001の概要や認証取得によって企業が得られるメリットについて解説します。
ISO9001の概要と目的
ISO 9001の目的は、顧客の要求事項を的確に満たす製品およびサービスな安定的な提供とそれに伴う顧客満足の向上です。本規格は国際標準として策定されており、業種や組織規模を問わず、世界各国のあらゆる組織に適用可能な汎用性を有しています。
加えて、業務の標準化および継続的改善を促進する仕組み・管理体制の構築によって、組織の信頼性向上および競争力の強化にも大きく寄与します。
ISO9001の認証を取得するメリット
ISO 9001認証を取得することにより、製品およびサービスの品質を安定的に提供可能な体制を整備でき、顧客満足度の向上という重要な成果が期待されます。
また、業務プロセス標準化を推進するとともに、管理体制における改善活動を継続的に促進することで、コスト削減および業務効率化にも資する効果が見込まれます。
さらに、第三者機関による認証を通じて、組織の信頼性が対外的に担保されることから、取引先における評価の向上や、入札参加要件への適合など、ビジネス機会の拡大にも大きく貢献します。
ISO14001とは
ISO 14001は、国際標準化機構(ISO)が定めた環境マネジメントシステム(EMS)に関する国際規格です。
環境法令の遵守および環境リスクの把握と対策、継続的な改善を重視しており、企業の社会的信頼性向上やESG対応、環境配慮型経営の実現に寄与します。以下では、ISO14001の概要と企画の目的、認証を取得するメリットについて解説します。
ISO14001の概要と目的
ISO 14001は、国際標準化機構(ISO)が制定した環境マネジメントシステム(EMS)に関する国際規格であり、すべての業種・業態で適用が可能です。企業・組織の事業活動における環境への影響を把握・管理・改善し、環境保護と法令遵守を両立する体制の構築を目的としています。
具体的には、温室効果ガス排出の削減、事業経営によって排出される廃棄物の管理、省エネルギーの推進などを指します。ISO 14001認証の取得は、持続可能な経営や社会的信頼の向上に貢献するでしょう。
ISO14001を取得するメリット
ISO 14001認証を取得することにより、事業活動に伴う環境負荷の低減が期待できるとともに、法令遵守体制の整備が図られ、企業としての社会的信頼性の向上が見込まれます。
あわせて、廃棄物処理やエネルギー使用量の削減等を通じて、コスト削減にも寄与する可能性もあるでしょう。
加えて、排水・排煙・廃棄物処理に関する環境関連法令の違反防止、有害物質の漏洩、火災等の事故・災害リスクに対する管理体制および抑止体制の強化にもつながります。
さらに、環境配慮型企業としての評価が高まることで、取引先や顧客からの信頼性の向上、ならびに公共調達や入札参加要件への適合にも資するものです。
環境(Environment)、社会(Social)、および企業統治(Governance)の3要素を考慮した「ESG投資」の評価においても有利に働き、持続可能な経営基盤の確立を支援する重要な要素となります。
ISO9001とISO14001の比較
ISO9001とISO14001には、以下の特徴があります。
項目 | ISO9001(品質マネジメントシステム) | ISO14001(環境マネジメントシステム) |
---|---|---|
規格の目的 | 製品・サービスの品質向上と顧客満足の実現 | 環境への影響の最小化と持続可能な活動の推進 |
対象分野 | すべての業種(製造業、サービス業など) | すべての業種(なかでも環境負荷が高い業界で有効) |
基本的な要求事項 | 品質方針、リスクと機会、製品・サービスの管理 | 環境方針、環境側面、法令順守、汚染の予防 |
重視される点 | 顧客要求の満足、継続的改善 | 環境保護、法令順守、環境リスク管理 |
法令遵守事項 | 顧客要求や契約要件を重視しているが関連法令の順守も必要 | 環境関連法規制の遵守が必須 |
利害関係者の視点 | 主に市場・顧客層、顧客と内部関係者 | 顧客、地域社会、規制当局など幅広い関係者 |
認証の有効期間 | 原則3年(毎年サーベイランス監査) | 原則3年(毎年サーベイランス監査) |
以下では、上記の特徴を踏まえてISO9001とISO14001を比較し、共通点と相違点についてより詳しく解説します。
共通点
ISO 9001とISO 14001は、いずれもISOが定めたマネジメントシステム規格であり、PDCAサイクルに基づく継続的な改善を重視していることが共通点です。規格構成はいずれも、ISOマネジメントシステムの枠組みとして定義された「附属書SL」に準拠しています。
内部監査・マネジメントレビューなどの共通要素もあるため、統合運用が可能です。いずれの規格もリスクと機会への対応、利害関係者による要求の把握を求めており、経営戦略と連動した管理体制の構築を支援します。
相違点
ISO 9001とISO 14001はいずれもマネジメントシステム規格である反面、目的と重点の置き方に明確な相違点があります。ISO 9001は「製品・サービスの品質向上と顧客満足の実現」を目的としており、品質基準や業務の効率化に重点を置いています。
一方、ISO 14001は「環境への負荷低減と持続可能な経営の推進」を目的としており、環境関連の法令遵守への取り組みを重視している点が特徴です。双方、法令遵守は重要視されているものの、とりわけISO 14001における環境関連の法令は多岐にわたります。
憲法・法令・政令のほか、規制・地域条例・住民協定などの遵守も必要です。ISO規格の要求事項への適合を通じて、法規制の適用範囲を正確に把握し、違反のリスクを回避する体制構築が求められます。
ISO9001とISO14001のいずれの認証を取得すべきかを検討する際は、両規格における共通点および相違点を的確に把握したうえで、自社の実情や経営課題に即したマネジメントシステムの選定が求められます。加えて、後述のISO9001とISO14001の統合も視野に入れたうえでの検討も必要です。
ISO9001とISO14001を取得する企業の特徴
ISO9001とISO14001を取得する企業には、以下の特徴があります。
項目 | ISO 9001を取得する企業の特徴 | ISO 14001を取得する企業の特徴 |
---|---|---|
目的意識 | 品質・顧客満足度向上を重視 | 環境保護・法令順守・CSR対応を重視 |
業種例 | 製造業、建設業、サービス業、医療・教育機関など | 製造業、化学・エネルギー業、建設業、自治体など |
導入背景 | 顧客・取引先からの信頼獲得、競争力強化、入札要件への適合 | 環境リスク管理、社会的責任への対応、SDGs・ESG意識の高まり |
経営層の関心 | 品質管理によるブランド価値の向上・クレーム削減など | 持続可能な経営・企業価値の社会的アピールなど |
ISO9001の認証を取得する企業は、品質の向上および顧客満足度の向上を重視し、業務プロセスの標準化ならびに業務効率の改善を目的として認証取得に至る傾向が強く見受けられます。
これに対し、ISO 14001の認証を取得する企業は、環境保護の推進、環境関連法令の遵守、ならびに企業の社会的責任(CSR)への対応といった観点から、環境リスクの管理やESG経営に対する意識が高い点に特徴があります。
ISO9001とISO14001の統合とは
ISO9001とISO 14001の統合とは、品質と環境のマネジメントシステムを一体的に構築・運用することを指します。両規格は共通の構造「附属書SL」に基づいており、同時認証も可能です。
ISO9001とISO14001を統合すれば、重複する文書や手順を整理でき、内部監査およびマネジメントレビューの一元化にもつながります。結果的に、業務プロセスの一元化・効率化による管理コストの削減、組織全体の効率的な運営も実現可能です。
ISO9001とISO14001の統合により、審査工数を削減できる場合もあります。将来的に両規格の取得を視野に入れているのであれば、統合による同時認証も検討する必要があります。
総括
本記事では、ISO9001とISO14001の概要や違い、両者の取得企業の特徴を解説しました。両規格の目的には差異がある一方で、共通のフレームワークに基づいているため、統合により運用・管理の効率化が図れます。
自社の経営課題や取引先の要求に応じて、適切な規格の導入を検討することが、持続可能な企業運営および社会的信頼の確立につながります。
ISO9001とISO14001は、どちらも事業体制の継続的改善が見込める国際規格です。自社の特徴、実情に応じて取得する規格を選定しましょう。
この記事の編集者

QFSjapan編集部
ISO審査・認証サービスを提供する「株式会社QFSjapan」が運営。ISOを新たに取得する方や、すでに運用中の方のお悩みや知りたいことを中心にお届けします。ISOの専門家として、信頼できる情報をISO初心者の方でも分かりやすくお伝えできるよう心掛けていきます。