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ISO9001、ISO14001、ISO27001などのマネジメントシステム規格において、「是正処置」は組織の継続的改善を実現するための中核的要素として位置付けられています。
要求事項への不適合が発生した際には、単なる修正対応にとどまらず、根本原因を明確にし、再発を防止するための具体的かつ効果的な対策を講じることが不可欠です。ISO認証の維持には、マネジメントシステムの有効性を確保・維持するために、形式的な処置ではなく、実効性を伴う是正処置の適切な実施が求められます。
しかし、実務では「適切な是正処置とはなにか」が曖昧になりやすく、対応が属人的になるのも課題の一つでしょう。本記事では、ISO各規格における是正処置の基本的な考え方を整理した上で、実務における適切な実施手順を体系的に解説します。
ISOにおける「是正処置」の定義・位置づけ
ISOにおける「是正処置」とは、不適合の原因を除去し、再発を防止するための処置を指します。要求事項に対する不適合の修正作業や応急対応に終始せず、発生原因を明確に特定し、根本的な再発防止策を講じることが肝要です。
ISO9001では品質マネジメントシステムに対する不適合、ISO14001では環境マネジメントシステムに対する不適合、ISO27001では情報セキュリティマネジメントシステムに対する不適合など、各マネジメントシステムに対して適用されます。
是正処置は、企業・組織のマネジメント体制における、継続的改善を推進するために不可欠な活動です。
不適合とは
不適合とは“要求事項を満たしていないこと”と定義されています。さらに要求事項とは”明示されている、通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている、ニーズ又は期待“と定義されています。これらから、不適合とは以下のような事象が考えられます。
- 規格要求事項を満たしていない(内部監査、外部審査、取引先による審査・調査)
- 顧客のニーズや要求を満たしていない(苦情、クレーム)
- 情報システムは365日24時間利用可能である(システム障害)
- 法令違反(事件、行政指導)
- 会社が定める規定違反 等
監修者である私は審査で必ず「不適合はどのような事象や情報を対象としますか?」と質問しますが、多くの場合、答えられないまたは内部監査、外部審査と回答されます。規格が定める用語の定義を読めば監査や審査だけが対象でないことがわかります。
ISO規格における是正処置の位置づけ
ISO規格における是正処置は、マネジメントシステムの有効性を維持・向上させ、継続的改善を実現へ向けた取り組みの中核を担うプロセスです。ISO9001:2015の要求事項10.2「不適合及び是正処置」では、以下のように規定されています。
10.2 不適合及び是正処置
組織は、不適合が発生した場合には、次の事項を実施しなければならない。
a) 不適合を管理し、それに対処する。必要に応じて、起きた結果への処置を行う。
b) 是正処置の必要性を評価することによって、不適合の原因を除去するための処置を実施する。
c) 必要な処置を実施する。
d) その処置の有効性をレビューする。
e) 要求事項への適合を維持することを確実にするために、マネジメントシステムにおける変更が必要かどうかを判定する。
f) 実施した処置を文書化した情報として保持する。
引用:ISO 9001:2015|国際標準化機構
ISOの是正処置では、単なる修正対応に留まるのではなく、不適合の原因分析、是正処置の実施、有効性の確認、システムの適合性維持まで一連の管理を行います。是正処置は、品質(ISO9001)に限らず、環境(ISO14001)、情報セキュリティ(ISO27001)など、すべてのISO規格において重視される項目です。
不適合の是正のみならず、不適合が発生した原因の究明によって再発防止策を徹底し、組織の継続的改善につながる体制構築に実現が求められます。
是正処置の必要性
ISO規格における是正処置は、マネジメントシステムの有効性を維持し、継続的な改善を推進するために不可欠な項目です。不適合発生時に表面的な修正で対応した場合、同様の問題が再発する可能性があります。
是正処置を講じて不適合の原因を明確にし、抜本的に体制全体を見直すことにより、不適合の再発を防止します。品質・安全性の向上、法令遵守の徹底、顧客満足度の向上など、マネジメントシステムの維持・安定化につなげる取り組みです。
ISO規格では、是正処置を単なる事後対応ではなく、計画的・継続的な改善活動の一環と位置付けています。企業・組織の安定運営を維持し、信頼性の高いマネジメントシステムを構築するためには、原因分析に基づく適切な是正処置の実施が必要です。
予防処置との違い
是正処置と予防処置は、いずれもマネジメントシステムの改善活動における重要なプロセスですが、目的と対応のタイミングに明確な違いがあります。是正処置は、すでに発生した不適合や問題に対して実施されるものであり、不適合の原因を分析して根本原因の特定による再発防止がおもな目的です。発生した事象・問題を対象とし、再発防止を徹底するための対応を行います。
一方、予防処置は、まだ発生していないが発生する可能性のある不適合・問題の未然防止が目的です。リスクを事前に評価し、潜在的な原因を予測・排除することで、問題の発生を防ぎます。
現在の規格には“予防処置”という独立した要求はなく「リスク及び機会への取り組み」という考え方に統合されたものの、本質的には未然防止の考え方に基づいています。是正処置は事後対応、予防処置は事前対応という位置づけです。
是正処置は、現状の把握と適正化に向けた対応に欠かせないものであり、「リスク及び機会への取り組み」と同様に、マネジメントシステムの維持・継続における重要な役割を担っています。
ISO是正処置が必要になる主な場面
ISOにおける是正処置は、ISO規格の要求事項に対する不適合が発生した際に求められます。内部監査や外部審査の際に不適合が発覚した場合は、審査員や監査員によって指摘されます。また、業務手順からの逸脱、品質・環境・情報セキュリティ上の問題、顧客クレーム、事故・トラブルなどが発生した際も対応が必要です。
- 内部監査における不適合発生時
- 外部審査時における軽微または重大な不適合発生時
- 苦情やクレーム・事故・トラブルの発生時
不適合発覚時やクレーム・事故・トラブルの発生時には、原因を特定し、再発防止を目的とした是正処置を講じる必要があります。以下では、ISO是正処置が必要になるおもな場面について解説します。
内部監査における不適合発生時
内部監査で不適合が見つかった場合、是正処置を講じる必要があります。ISO9001、ISO14001およびISO27001の9.2項では、内部監査の目的として「組織が自ら規定した要求事項」および「規格要求事項」への適合状況の確認が明記されています。
ただし、適合・不適合の最終判断を内部監査の監査員に義務付けるものではなく、不適合が発生した場合に是正処置の実施を企業・組織に対して求める趣旨です(規格10.2項)。内部監査の結果は、関連する管理層(経営者、部門長など)への報告が要求されます。
監査結果において不適合が特定された場合、是正処置として原因分析を行い、根本原因を除去し、再発防止を図る必要があります。不適合・指摘事項は、企業・組織全体のマネジメント体制の向上を示唆するものであり、歓迎すべき事項です。マネジメントシステムの体制構築を強化する機会として、前向きに捉えた上で適切な対応が求められます。
外部審査時における軽微または重大な不適合発生時
ISOの外部審査において、軽微または重大な不適合が指摘された場合も、是正処置が必要です。外部審査を実施する審査機関は、企業・組織の体制における規格要求事項への適合状況を確認し、不適合があれば通知します。
外部審査では、適合・不適合・観察事項(改善の機会)があり、不適合は重大・軽微(メジャー・マイナー)の2種類があります。観察事項(改善の機会)は、不適合には満たない対応を推奨する事項と定義されている項目です。是正処置が求められるのは不適合が発見された場合であり、観察事項(改善の機会)は該当しません。
一方で、不適合のうち重大(メジャー)と判断された場合は審査停止の判断となり、後日再審査の受審が必要です。再審査時に是正処置が不十分と判断されると、認証の一時停止や取り消しの対象となる場合があります。軽微な不適合の場合は、是正処置計画の提出により認証が継続されます。是正処置の実施状況・有効性は、次回の審査で確認・評価します。
ただし、新規認証審査で軽微な不適合が発見された場合は、認証登録のために是正処置の完了が必要です。マネジメントシステムの有効性維持と認証継続のためには、適切な是正処置の迅速な実施が求められます。
関連記事:ISO認証取り消しの原因を解説|企業が受ける影響や対策とは?
苦情やクレーム・事故・トラブルの発生時
苦情やクレーム・事故・トラブルが発生した場合も、是正処置の実施が必要です。これらの事象は顧客満足の低下ならびに、企業・組織に対する信頼性の損失、法的リスクの発生につながる可能性があるため、迅速な対応が求められます。
発生した問題に対しては、まず事象を正確に把握し、原因を分析した上で、再発防止を目的とした是正処置を計画・実施します。表面的な対応に終始せず、事象が発生した根本原因の除去による、同様の問題に関する再発抑止へ向けた取り組みが肝要です。
内部監査や外部審査時に不適合が発覚した場合に、必要になる対応策が是正処置であり、マネジメントシステムの改善・維持に欠かせない項目として位置付けられます。また、トラブルを未然に防ぐための「予防処置(リスク及び機会への取り組み)」も行い、より安定したマネジメント体制の構築に努める必要があります。
関連記事:ISO規格における「リスク及び機会への取り組み」とは?定義や実践方法を解説
ISO是正処置の実施手順
ISO規格への不適合が発見された際、以下の実施手順で是正処置を行います。
- 不適合に対して修正処置を行う(応急処置)
- 不適合を分析し、原因を究明する
- 必要な是正処置を実施する(恒久処置)
- 是正処置の有効性をレビューする
- 必要な場合、マネジメントシステムの変更を行う
以下では、実施手順ごとのISO是正処置の進め方を解説します。
1.不適合に対して修正処置を行う
不適合が発生した際、影響の拡大を防ぐための修正処置を迅速に実施します。修正処置は、不適合の結果に対する一時的な対応であり、事象の正常化や被害の拡大防止を目的とした対応です。この段階では、原因分析は行わず、現状の是正を優先します。
2.不適合を分析し、原因を究明する
修正処置の後、不適合が発生した原因を分析します。とかく、教育不足、理解不足、周知不足等、人に偏った原因となりがちですが、表面的な原因だけでなく、“ヒト”“設備・機器”“手順・ルール”の3つの視点でなぜなぜ分析・QC7つ道具「特性要因図(フィッシュボーン図)」などを活用するとよいでしょう。直接原因・間接原因・管理上の不備などに対する、多面的な検討が必要不可欠です。正確な原因分析が行われなければ、再発防止策が不十分となるリスクがあります。
3.必要な是正処置を実施する
原因分析の結果をもとに、再発防止のための是正処置を計画・実施します。是正処置は、修正処置とは異なり、根本原因の除去が目的です。是正処置には、手順変更、教育訓練の実施、設備の改善などが含まれます。
ただし、「原因の理解不足」「教育不足」「周知不足」「対策が原因を除去するものとなっていない」などの要因により、是正処置の不足が指摘される場合もあります。再発リスクを排除し、同様の不適合が起こらない仕組みづくりのためには、正確な原因分析による適切な是正処置の実施が不可欠です。
4.是正処置の有効性をレビューする
実施した是正処置が有効であるかを確認します。再発防止策の有効性を評価し、不足があれば追加処置を検討します。評価(レビュー)は短期的な確認にとどまらず、一定期間経過後の状況も踏まえた総合的な判断が必要です。是正処置を計画通りに実施したか、有効性を評価しているか、同様の事象が再発・発生していないかを確認します。
5.必要な場合、マネジメントシステムの変更を行う
是正処置の結果として、既存の手順書や管理ルールなどマネジメントシステムに不備が認められた場合は、マネジメントシステム全体の変更を行います。手順や適用範囲の見直し、標準類の改訂などへの変更をマネジメントシステムに反映させることで、仕組みとして再発防止策を定着させる目的です。
是正処置報告書の書き方
是正処置報告書とは、不適合が発生した際に、原因分析および是正処置の内容、実施状況・効果確認までを記録・管理する文書です。以下では、是正処置報告書の概要および必要性、書き方について解説します。
是正処置報告書の概要および必要性
是正処置報告書では、不適合の内容および原因分析、是正処置の計画・実施内容、効果確認に加えて、必要に応じたマネジメントシステムの変更点までを整理・記載します。是正処置が計画的かつ有効に実施されたことを証明するためのものです。
ISO規格では、是正処置の実施内容に関する文書化および記録・管理が求められており、内部監査・外部審査でも重要な確認資料です。また、是正処置の記録は、再発防止策の継続的改善や組織内での情報共有にも活用されます。
是正処置報告書は、不適合の再発防止を目的としており、是正処置の妥当性や有効性を第三者にも示せるよう、適切な記録・管理が求められます。
基本的な構成
ISOの是正処置報告書の基本的な構成は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
1. 報告書番号・管理番号 | 報告書内容識別のための番号 |
2. 発行日・作成者・所属部門 | 作成日・担当者名・所属部署 |
3. 不適合の内容 | 発生日・不適合事象・発生場所・関係規格・手順 |
4. 修正処置内容 | 修正処置で講じた応急・暫定対応の内容 |
5. 原因分析 | 直接原因・間接原因・根本原因の分析結果の記録、過去の類似事例、今後発生する可能性の評価 |
6. 是正処置の内容 | 実施する対策・実施期限・担当者 |
7. 是正処置の実施状況 | 是正処置計画に対する実施状況の記録 |
8. 有効性の確認 | 是正処置の効果確認・結果の記録 |
9. マネジメントシステムの変更内容 | 必要に応じた手順書・ルールの改訂内容 |
10. 承認欄 | 責任者・管理者の承認記録 |
マネジメントシステムの変更内容については、必要に応じて対応した場合にのみ記録します。是正処置報告書は、不適合の再発防止や是正処置実施の証拠となる文書です。適切な記録・管理が求められます。
ISO是正処置で考慮すべき重要事項とは
ISOにおける是正処置では、原因分析の精度が肝要です。根本原因の正確な特定が、再発防止につながります。また、是正処置は実行可能かつ持続可能な対策である必要があります。
以下では、ISO是正処置で考慮すべき重要事項について、原因分析と対策の有効性判断の基準を解説します。
不適合の原因を的確に追究する
ISOの是正処置を講じる際は、不適合の原因を的確に追及し、精度の高い原因分析の実施が求められます。原因を追究する場合には、関連する「ヒト」「設備・機器」「手順・ルール」の3つの視点での検討が肝要です。
是正処置では、不適合の原因に対する対応策が求められるため、原因分析の精度が是正処置の有効性を左右します。多様な視点で状況を俯瞰し、客観的な判断による原因の特定と分析の実施が、是正処置の実施における重要な基盤です。
原因を除去できる対策か検討する
是正処置を講じる際は、是正計画が原因を除去できる対策かを確認・検討する必要があります。是正処置実施後の評価(レビュー)において、有効性が認められなければ是正処置の改善が必要です。是正処置を実施する前段階で、是正処置実施後の有効性を見通せていれば、適切な対策が講じられます。
総括
本記事では、ISO規格における是正処置の定義や目的を整理し、実施手順について解説しました。是正処置は、不適合の原因を正確に特定し、再発防止を図る重要なプロセスです。不適合の修正処置にとどまらず、根本原因の除去と是正処置の有効性を確認し、再発を確実に防ぐ必要があります。適切な是正処置の継続により、マネジメントシステムの有効性が維持され、企業・組織全体の継続的改善と信頼性の向上につながります。
この記事の編集者

QFSjapan編集部
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