BLOG ISOブログ

ISO9001におけるパフォーマンス評価とは?考え方、評価方法を解説

ISO9001(品質マネジメントシステム:QMS)は、製品やサービスの品質向上および顧客満足の実現を目的としている国際規格です。ISO認証の取得は、マネジメントシステムが国際基準を満たしていると国内・国外を問わず対外的に公表可能なため、企業・組織に対する信頼の醸成にも寄与します。

ISO規格の認証を取得・維持するには要求事項への適合が不可欠です。なかでも「パフォーマンス評価」は、企業・組織で構築したマネジメントシステムが効果的に機能しているかを確認し、継続的な改善へとつなげる指標となります。要求事項「評価(9.1〜9.3)」においては、測定したデータや情報の分析・評価、内部監査・マネジメントレビュー、改善のPDCAサイクルの推進が求められており、パフォーマンス評価を踏まえた体制の構築が必要不可欠です。

本記事では、ISO9001におけるパフォーマンス評価の基本的な考え方や実践方法と、パフォーマンス評価実施時の留意点について解説します。

ISO9001におけるパフォーマンス評価の概要

ISO9001では、品質マネジメントシステムの継続的な改善のために、企業・組織における「パフォーマンス評価」が重要な役割を果たします。顧客満足度の向上およびリスクの最小化を図るうえで、品質マネジメントシステムの維持にはデータに基づいた評価と意思決定が不可欠です。以下では、ISO9001におけるパフォーマンス評価の定義や必要性について、要求事項を交えながら解説します。

パフォーマンス評価の定義

ISO9001におけるパフォーマンス評価とは、品質マネジメントシステム(QMS)の有効性および適合性を継続的に把握し、企業・組織全体の体制改善への寄与を目的とした体系的な活動を指します。本評価では、企業・組織が設定した品質目標の達成状況、ならびにプロセスおよび製品・サービスが顧客の要求を満たしているか否かを、測定・分析・評価により解析します。業種やサービス内容によりパフォーマンスに関するデータは異なることもありますが、顧客満足等の顧客からの評価、内部監査、外部審査、品質目標の達成状況、不良率、苦情・クレーム、業務効率、委託先評価等がその例です。これらの情報を分析し、マネジメントレビューで評価します。これらを通して、強み、弱み、改善課題等が明らかになり、継続的改善につながります。

パフォーマンス評価の目的・必要性

パフォーマンス評価は、ISO9001(品質マネジメントシステム(QMS))の有効性の定期的な把握による継続的改善が目的です。評価を通じて、品質目標の達成状況および業務プロセスの妥当性、リスク及び機会への取り組みを確認し、不適合・リスクの早期発見を図ります。また、パフォーマンス評価は、顧客満足の向上および組織の競争力強化にも寄与します。ISO9001では、データに基づく意思決定を重視しており、パフォーマンス評価による客観的な視点は、経営判断および改善活動の根拠として不可欠です。

関連記事:ISO規格における「リスク及び機会への取り組み」とは?定義や実践方法を解説

ISO9001:2015における要求事項(9.1~9.3)との関係

ISO9001:2015においてパフォーマンス評価は、第9章「パフォーマンス評価」で明確に規定されており、なかでも9.1「監視、測定、分析及び評価」、9.2「内部監査」、9.3「マネジメントレビュー」が関連しています。これらの要求事項は、品質マネジメントシステム(QMS)の有効性を評価し、継続的改善につなげるための枠組みです。

■9.1 監視、測定、分析及び評価

9.1.1では、監視、測定、分析および評価のために次の4点を決定します

a) 監視及び測定が必要な対象
b) 妥当な結果を確実にするために必要な,監視,測定,分析及び評価の方法
c) 監視及び測定の実施時期
d) 監視及び測定の結果の,分析及び評価の時期
組織は、品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を評価しなければならない。
組織は、この結果の証拠として、適切な文書化した情報を保持しなければならない。(ISO9001:2015 9.1.1より抜粋)

内部監査は、日常業務の客観的な確認手段であり、是正処置および体制改善の出発点となる評価活動です。設定された目標に対し、マネジメントシステムが効果的に機能しているか、パフォーマンス評価の基準と照合して確認します。

■9.3 マネジメントレビュー

トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切、妥当かつ有効で更に組織の戦略的な方向性と一致していることを確実にするために、あらかじめ定めた間隔で、品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。
(ISO9001:2015 9.3.1より抜粋)

マネジメントレビューでは、経営層が組織の品質マネジメントシステム(QMS)全体の適切性・妥当性・有効性について、パフォーマンス評価を通じて客観的に捉え、方針や戦略の見直しを行います。

パフォーマンス評価は、継続的な品質向上に欠かせないプロセスであり、品質マネジメントシステムの根幹に位置する指標の一つです。

ISO9001におけるパフォーマンス評価の主な指標

ISO9001におけるパフォーマンス評価では、品質マネジメントシステムの有効性を客観的に把握するために、具体的な指標(KPI)の設定と管理が不可欠です。これらの指標は、品質マネジメントシステムの運用による成果、顧客満足度、改善活動の効果などを可視化し、経営判断や是正処置の根拠となります。本項では、ISO9001における代表的なパフォーマンス評価指標について、具体例を挙げて解説します。

パフォーマンス評価の種類

ISO9001におけるパフォーマンス評価には、「定量的評価」と「定性的評価」の2種類あります。定量的評価は、在庫回転率および納期遵守率、不良品率、顧客満足度スコア・クレーム件数、KPIに対する達成率など、数値データを用いた評価手法であり、比較やトレンド分析に適している評価方法です。

一方、定性的評価は、顧客からの苦情内容傾向分析、従業員の改善提案、マネジメントレビューでの経営層の判断・所感、内部監査での所見など、数値化が難しい情報をもとに判断を行います。数値による評価と数値では表せない評価の組み合わせにより、品質マネジメントシステムの全体像を正確に捉えられます。

KPI(重要業績評価指標)とは

パフォーマンス評価におけるKPI(重要業績評価指標)とは、企業・組織の目標および方針に対して、達成状況を数値で把握・評価するための具体的な指標です。ISO9001では、品質目標の進捗状況、プロセスの有効性を継続的に監視・測定する手段と位置付けられています。不良品率およびクレーム件数、納期遵守率、顧客満足度スコアなど、定量目標設定がKPIの一例です。加えて、定性目標にあたる顧客からの肯定的なコメント・表彰の有無、従業員のエンゲージメント向上、内部監査における改善意識・対応姿勢など、数値以外の評価指標も定めます。

定量目標・定性目標の組み合わせによって、適切なKPI設定と運用が実現でき、客観的なデータに基づく品質マネジメントシステムの有効性向上につながります。

ISO9001に適した具体的な指標例

ISO9001におけるパフォーマンス評価は、業種ごとに適切な指標を設定する必要があります。各業種における具体的な指標例は、以下のとおりです。

  • 製造業:不良品率・生産ラインの稼働率
  • IT企業:IT環境(サーバー、ネットワーク、ハードウェア、クラウドサービス)におけるバグ発見率・システム稼働率・納品後の修正件数
  • サービス業:顧客対応の初期応答時間・顧客満足度・クレーム対応の完了率
  • 建設業:設計および施工の不適合件数・工期遵守率・労働災害発生件数・関連法規の遵守状況
  • 食品業界:製品の規格外率・食品衛生検査の合格率・顧客クレーム件数および再発率・作業標準手順(SOP)の遵守率
  • 医療機器・医薬品業:品質管理試験の合格率・承認仕様書との一致率・GMP/QMS省令との適合監査結果・有害事象・副作用報告件数

業種に即した指標設定により、品質マネジメントシステムの有効性の正確な把握につながり、管理体制における改善策の効果向上に寄与します。

ISO9001におけるパフォーマンス評価の実践方法

ISO9001におけるパフォーマンス評価の効果を最大限に引き出すには、適切な評価指標の設定と、監視・測定・分析・レビューといった評価サイクルの企業・組織内への定着が不可欠です。以下では、パフォーマンス評価を実務に落とし込むための具体的な実践方法について解説します。

1.評価対象や監査、分析・評価方法の明確化

パフォーマンス評価では、まず評価対象となるプロセスおよび活動を明確に定義したうえで、評価指標(KPI)を設定します。内部監査および業務監視の実施方法、データ収集の手順、分析の視点や基準も明確化し、評価の一貫性と客観性の確保に努めます。

2.評価指標の設定

企業・組織の品質方針および目標と整合し、測定可能かつ現場で活用しやすい評価指標(KPI)を設定します。定量的な指標だけでなく、顧客満足度や従業員の意識など定性的な観点も含めることで、均整の取れた評価指標の設定につながります。評価指標の設定は、パフォーマンス評価の精度と有効性を左右する重要な工程です。

3.監査・測定の実施

設定された評価指標に基づき、実際のプロセスおよび成果物が計画通りに運用されているかを確認するため、監査・測定を実施します。内部監査は、手順の遵守状況、不適合の有無を客観的に評価し、是正の必要性を確認する機会です。一方、日常的な測定では、定期的に評価指標に関連した数値データを収集し、傾向・変化を把握します。

4.分析・評価の実施

収集した監査結果や測定データをもとに、品質目標の達成状況およびプロセスの有効性を分析・評価の実施により判断します。トレンド分析や要因分析を通じて、是正が必要な項目の根本原因および改善の機会を明確にします。また、異常値・不適合の発生傾向に注視し、リスクの早期発見に努めるのも肝要です。分析結果は、トップマネジメントの意思決定や是正処置・予防処置の検討・判断材料として活用されます。

5.内部監査の実施

内部監査では、品質マネジメントシステムがISO9001の要求事項および自社の手順に適合しているか、また効果的に運用されているかを評価します。監査員が、必要に応じて記録された文書の確認、現場へのヒアリングを通じて実態を把握し、不適合および改善点を抽出する工程です。内部監査の結果は、企業・組織の現状を客観的に示す貴重な情報であり、是正処置および継続的改善へ向けた取り組みの起点として活用されます。

6.マネジメントレビューの実施

マネジメントレビューは、経営層による品質マネジメントシステム(QMS)の適切性および有効性、継続的な改善の機会を確認・評価するための重要なプロセスです。内部監査結果の確認、顧客満足度、是正処置状況、目標の達成状況などの情報をもとに、企業・組織全体の意思決定と方針見直しを行います。定期的なマネジメントレビューの実施により、品質マネジメントシステム(QMS)全体の方向性を決定し、実務レベルに落とし込んだ品質向上・リスク管理体制を構築します。

ISO9001におけるパフォーマンス評価の留意点

ISO9001におけるパフォーマンス評価の留意点は、以下の4項目です。

  • 業務目標と企業・組織目標との整合性を維持したKPIを設定する
  • 費用対効果を意識する
  • 定量評価と定性評価を適切に組み合わせる
  • 指標の測定および分析の頻度、タイミングをルール化する

項目ごとの重要性および、パフォーマンス評価における効果について解説します。

業務目標と企業・組織目標との整合性を維持したKPIを設定する

パフォーマンス評価では、現場レベルの業務目標と企業・組織全体の戦略的目標の整合性維持が不可欠です。KPIは個別業務だけでなく、企業・組織全体の品質方針および経営方針と整合した内容で設定する必要があります。これにより、部門・拠点を問わず品質マネジメントシステムの基準が統一され、適切な評価と改善が可能になります。

費用対効果を意識する

パフォーマンス評価において、評価活動そのものが過度な負担とならないよう、費用対効果(投資対効果)を意識する必要があります。パフォーマンス評価は本来、経営判断および継続的改善に寄与する実効性を伴うものです。認証維持を目的とした形式的な取り組みでは、パフォーマンス評価だけでなく品質マネジメントシステムの本質をも見失いかねません。マニュアルおよび規程の整備、記録の作成などの作業を目的とするのではなく、それらが業務改善に資するかを判断軸として、費用対効果と効率の均整を見極める視点が求められます。

定量評価と定性評価を適切に組み合わせる

パフォーマンス評価では、数値で把握できる定量評価に加えて、現場の声・顧客の反応といった定性評価も組み合わせる必要があります。定量評価は、数値データの活用による客観的な評価指標として優れています。一方で、定性評価は数値では計測できない、背景課題および改善の糸口を見出すうえで優れた指標です。両者を適切に組み合わせた運用により、客観的評価指標と数値に表れない問題の可視化という両面から補完し合う形で、より実効性の高い品質マネジメントシステムの構築につながります。

指標の測定および分析の頻度、タイミングをルール化する

パフォーマンス評価において、指標の測定および分析の頻度・タイミングのルール化が不可欠です。ルール化されないまま曖昧な運用を行った場合、データの継続性・比較性が失われるため、パフォーマンス評価に対する信頼性が低下しかねません。月次・四半期ごとなど定められた測定頻度での定期的な実施により、傾向把握およびリスクの早期検知が可能となります。

ISO9001におけるパフォーマンス評価を適切かつ的確に行うには、現場での運用状況を客観的に監査・測定するための基準を定め、定量・定性の両面での評価実施が求められます。

総括

本記事では、ISO9001におけるパフォーマンス評価の基本概念から、実務で活用するための手法および留意点について解説しました。パフォーマンス評価は、マネジメントシステムの有効性を確認し、組織の継続的改善を支える重要なプロセスです。KPIの整合性、分析頻度、定性・定量のバランスにも配慮し、戦略的に活用していく必要があります。ISO9001の本質を実務に活かすうえでも、パフォーマンス評価の効果的な実施が肝要です。

  • Xでシェアする
  • lineでシェアする
  • facebookでシェアする
  • ブックマークして共有する

この記事の編集者

CONTACT US ISO認証取得のご相談・
お見積りはこちら

お電話の方
[受付時間]平日10:00〜18:00
WEBの方
24時間受付中